トム・ホーバスHCと車いすバスケ鳥海連志が語る、パリオリ・パラに向けた日本代表にふさわしいメンタル強化 (2ページ目)

  • 三上太●取材・文 text by Mikami Futoshi
  • photo by Murakami Shogo

――今後3ポイントシュートに挑戦していく上では車いすを再度セッティングしていくということでしょうか?

鳥海 たぶん、まだまだ僕は変わっていくと思いますよ。

――稚拙な質問ですが、なぜそうしようと思うのですか?

鳥海 これまでの男子日本代表には2人の柱になる選手がいたんです。3ポイントシューターのヒロ(香西宏昭)と、センターの藤本怜央です。この2人が日本の柱と言われていたんですけど、彼らはもう30歳を超えています。だからこの先もずっと彼らに頼れないというのがあって、リオ以降は僕がチームのなかで3番目の柱になることを目標にしていたんですね。ただこれからは、彼らがいつ抜けても大丈夫なような、もっとしっかりした柱になることが必要になります。そのためには成長は止められないというか、一番信頼してもらえるように、シュートもスペシャリストになっていかなければいけない。だから僕はいつも「崖っぷち」なんです。やるしかない そんな感覚です。

――これからの話をしましょう。ホーバスヘッドコーチは東京オリンピック後、男子日本代表のヘッドコーチに就任し、すでに4試合を戦っています。鳥海選手も、千葉で行なわれる予定だったU23のワールドカップが延期になり、会場もタイに変わりましたが、次のステップに入っていると思います。お互いにパリオリンピックを今、どのように見据えているかを聞かせてください。

ホーバス 私は男子日本代表を半年ぐらい見てきました。バスケのシステムと考え方の変更はチーム作りにとって大きなことですけど、やはり一番大きいのは選手たちのメンタリティです。そこに少し物足りないところがあるので、もう少しアジャストしたいと考えています。ただ女子日本代表も私が5年前にヘッドコーチになった時、同じようにメンタリティのアジャストをしたいと考えていました。彼女たちのなかに「強くなりたい」といった思いや自信が少し足りなかったからです。

 つまり今の男子日本代表は5年前の女子日本代表とメンタリティの面でちょっと似ています。今は「カルチャーチェンジ」、つまり文化を変える時期です。男子はまだオリンピックやワールドカップでも勝てていませんからね。今はハングリーな選手を探しながら、これまでの経験がある選手たちにもチャレンジをさせているところです。そこが今後の大きな鍵だと思っています。

――鳥海選手と一緒に練習をやることがあれば、彼は男子日本代表の選手を相手にしてもハングリーなプレーを見せてくれるんじゃないでしょうか?

ホーバス 間違いないです。鳥海選手のようなメンタリティが大切です。彼らには女子日本代表のキャプテンを務めた髙田選手の話もしましたが、髙田選手にも男子に話をしてもらいたいと思っています。彼女はすごく強い人ですから。そういう意味で鳥海選手もメンタリティが同じです。いつでも練習に来てください。

鳥海 はい、ぜひ。僕も千葉で行なわれるはずだったU23ワールドカップの時期が延期され、場所もタイに変わったんですが、そのチームには東京パラリンピックに出ているメンバーが僕を含めて3人いるんです。その僕らが主軸になる大会になるので、国内での開催は叶いませんでしたが、結果を出して帰ってくることは絶対的に必要だと考えています。そのうえでパリに向けては、そうした若手がベテランを食っていきたいという気持ちがあります。

 今まではベテランに頼りながら若手がのびのびとバスケをするというスタイルでしたが、ここからはベテランからぐうの音も出ないくらいに若手がプレッシャーをかけていく。競争力の激化という意味でも僕を含めて若手はそこを見ていて、U23で結果を残すこともそうだし、パリに向けてフル代表のメンバーに入っていくこともそうだし、でも一番はやはり先ほども言いましたが、2人の柱には頼らなくてもバスケができることを目指しています。そのためには、それぞれの個の成長はもちろん、チームとしても自分がこの日本代表にふさわしいと思えるメンタリティと実力をつけてチームを作っていく。僕は今、そのチームビルディングが一番楽しみなところです。

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