MotoGPでのホンダ、ヤマハの苦戦要因は他産業の構造的問題と類似? 王者ドゥカティとは大差 (3ページ目)

  • 西村 章●取材・文 text by Akira Nishimura

【ヤマハは着実に欧州化が進む】

2024年にヤマハファクトリーへ移籍してきたアレックス・リンス photo by MotoGP.com2024年にヤマハファクトリーへ移籍してきたアレックス・リンス photo by MotoGP.comこの記事に関連する写真を見る

 さまざまな開発部品は、そのような目に見えないマネジメントシステムが物理的な形をとって具体化される、あくまでも事象としての結果にすぎない。つまり、日本企業が欧州勢に追いつくために必要なのは、勝ちたいという思いが結実して独創的な個々のマテリアルという形を取るまでのプロセス、つまり機敏で柔軟な組織運営を支える何かなのだろう。
 
 この点について、最終戦バレンシアGP後の火曜日に行なわれた2024年用テストで、ファビオ・クアルタラロが述べていた言葉はかなり示唆的だ。

「彼ら(ヤマハ)はメンタリティを変えてヨーロッパにかなり近づきつつある。我々に必要なのはまさにそこで、あらゆるものごとを迅速化することで変化も生まれてくる。2月(の開幕前テスト)から7月(の前半戦締めくくり)までは非常に重要で、この期間にバイクを改善してどんどんアップデートしていくことが(シーズン全体の)決め手になる。それを実現するためにも、メンタリティが(欧州型に)変わることがカギになる」

 クアルタラロが指摘する〈欧州型メンタリティ〉について、すでにヤマハは面白い動きを見せている。

 ホンダのサテライトチームから2024年からヤマハファクトリーへ移籍するアレックス・リンスが最も信頼する電子制御エンジニアを、他陣営から引き抜いたのだ。2023年にKTM陣営のGasGas KTM Factory Racing Tech3に所属していた島袋雄太氏は、スズキが撤退する以前はずっとリンスの傍らでバイクの電子制御を担当してきた。スズキが撤退した2022年は、最終盤のオーストラリアGPでリンスが大激戦を制して優勝。スズキ最後のレースになったバレンシアGPでも、圧倒的な独走優勝を果たして世界中を感動させた。これらのリンスの優勝は、〈縁の下の力持ち〉である島袋氏の貢献も大きい。

 スズキ解散後のふたりはそれぞれ別の道を進むことになったが、2024年はどうやらリンスのリクエストによって、島袋氏とのタッグが実現した。27日のテストを終えて、島袋氏と久々に仕事をした印象をリンスに訊ねてみると、非常にポジティブな言葉がかえってきた。

「雄太を自分のチームに得たという事実は、とても意義が大きい。雄太はスズキの経験が長く、今日一緒に働いてみて、彼を連れてくると決めたのは正解だったとつくづく思った。制御面でああしようこうしてみようといろいろ提案してくれるし、スズキ時代から馴染んだ作業のやりかたも、とてもうまく進んだ。これからの(プレシーズン)テストでも、精力的にいろんなコトを試していけると思う」

 欧州的な組織変更とは、なにも人材を欧州型にすることばかりを意味しているわけではない。重要なのは、リンスと島袋氏の関係にあるとおり、必要とあれば他陣営の人材であろうとも即座に一本釣りしてくる、という柔軟で機敏、かつ迅速な意志決定と対応だ。企業の垣根にとらわれない、このような人材交流が今以上に活性化すれば、日本企業の〈欧州化〉がさらに進んで開発方針や思想にも幅が広がり、組織運営の新たな道筋もやがて見えてくるのかもしれない。

プロフィール

  • 西村章

    西村章 (にしむらあきら)

    1964年、兵庫県生まれ。大阪大学卒業後、雑誌編集者を経て、1990年代から二輪ロードレースの取材を始め、2002年、MotoGPへ。主な著書に第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞、第22回ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞作『最後の王者MotoGPライダー・青山博一の軌跡』(小学館)、『再起せよ スズキMotoGPの一七五二日』(三栄)、『スポーツウォッシング なぜ〈勇気と感動〉は利用されるのか』 (集英社新書)などがある。

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