日本人F1フォトグラファーが見届けたホンダの最後と歓喜の様子。「そのシーンを撮影するために1年間頑張った」

  • 川原田 剛●取材・文 text by Kawarada Tsuyoshi

ーーホンダが2021年シーズン限りでのF1撤退を発表したのは2020年10月2日。それからスタートしたということですね。

熱田 そうです。チャンピオン獲得のためにエンジンの骨格を変えると言葉にするのは簡単ですが、10月から本格的に開発を始めて、翌年2月のテストで走るまでに仕上げるのは大変だったと思います。しかも完成した新骨格のPUは信頼性もパワーも高かった。だからメルセデスを相手にして互角の戦いを演じ、奇跡を呼び込むことができたと感じます。ソフト面の山本さん、ハード面の浅木さん、そして現場で陣頭指揮をとったテクニカルディレクターの田辺(豊治)さん、その3人のうち誰が欠けていても、ホンダの偉業達成はなかったでしょうね。

【現場で感じた海外と日本の温度差】

ーー最終戦アブダビGP以外で、現場にいたからこそ印象に残っている場面はありますか?

熱田 フェルナンド・アロンソが3位に入ったカタールGPと、昨年限りで引退したキミ・ライコネンがクラッシュしたポルトガルGPです。ともに世界チャンピオンに輝いたベテランですが、カタールでは7年ぶりに表彰台に立ったアロンソのすごさや闘争心をあらためて感じました。逆にポルトガルでのライコネンは、衰えたなぁと思いました。ステアリングホイールのスイッチ操作をしていてチームメイトとぶつかりリタイアするなんて、ちょっと考えられないミスです。誰しもいつかは引退の日を迎えますが、あのライコネンもついに......と感じました。

桜井 2020年シーズンは新型コロナのために1年間、現場での取材ができなかったので、個人的には2021年シーズン開幕戦バーレーンGPのスタートが印象深いです。でも現地で取材してみると、日本と海外の温度差の違いには驚きました。結局、2021年シーズンは日本、中国、オーストラリアでのイベントが中止になりました。アジアでは「コロナは絶対に許さない」というスタンスですが、かたやヨーロッパでは社会がもう完全に「ウィズ・コロナ」になっています。あんなにお客さんを入れたら感染者は増えることはわかっていますが、それでもあえてやるというのがヨーロッパのスタンスです。

コロナ禍での欧米のF1に対する姿勢について語った桜井氏コロナ禍での欧米のF1に対する姿勢について語った桜井氏この記事に関連する写真を見る熱田 ヨーロッパと一口にいっても、無観客で開催するところ、人数制限しているところ、満員の観客を入れて行なうところがありました。でも、ハミルトンの地元イギリスは超満員でしたし、メキシコやアメリカもスタンドはパンパンでした。特にアメリカはすごかった。レース開催時にはサーキットのあるテキサス州でもコロナの感染者がいっぱい出ていました。でも、それまでみんな我慢しているから、やるとなったらいつも以上にお客さんが入っている印象でした。アメリカGPではビリー・ジョエルのライブがあったのですが、みんなマスクしないで、大声で歌っているんですから。当然、僕はマスクしていましたけど。

桜井 日本人とは考え方が違いますよね。フェルスタッペンの地元オランダGPもお客さんの数を3分の2に制限していましたが、グランドスタンドは超満席でした。でも日本GPは中止ですから。これは国民性、民族性の違いなのかもしれませんね。

(後編へつづく)

【プロフィール】 
熱田 護 あつた・まもる 
1963年、三重県鈴鹿市生まれ。2輪の世界GPを転戦したのち、1991年よりフリーカメラマンとしてF1の撮影を開始。取材500戦を超える日本を代表するF1カメラマンのひとり。2021年シーズンもコロナ禍のなかで全22戦の取材を敢行。今年3月3日に30年ぶりにタイトルを獲得した第4期ホンダF1の記録をまとめた写真集『Champion』(インプレス)を発売予定。「感動的なシーズンを、僕の写真で振り返ってもらえればうれしい」(本人談)。

桜井淳雄 さくらい・あつお 
1968年、三重県津市生まれ。1991年の日本GPよりF1の撮影を開始。これまでに400戦以上を取材し、F1やフェラーリの公式フォトグラファーも務める。新型コロナの影響で2020年シーズンの現場での取材を断念したが、2021年シーズンからは再開。今季は2月末にスペイン・バルセロナで開催されるテストから取材を開始予定。YouTubeでは『ヒゲおじ』としてチャンネルを開設し、クランプリウィークは『ヒゲおじ F1日記』を配信中。

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