MotoGPヤマハから漢カワサキへ移籍。中野真矢の腹の据わった走り (3ページ目)

  • 西村章●取材・文 text by Nishimura Akira
  • 竹内秀信●撮影 photo by Takeuchi Hidenobu

 カワサキは、伝統的にライムグリーンをイメージカラーにしている。また、〈漢(おとこ)カワサキ〉という言葉にあるように、カワサキユーザーやファンは硬派な豪快さをよしとする気風がある。端正な顔立ちで〈王子〉というニックネームもあった中野とは、やや雰囲気を異にする感が、ないではなかった。だが、実際にライムグリーンのレザースーツに身を包み、無骨な外観のマシンにまたがると、中野は誰よりも腹の据わった走りを見せた。

 カワサキのライダーとして初めて参戦した04年の開幕戦南アフリカGPでは、ある決意をもって予選に臨んだ。

「当時のカワサキは、15位以内でポイントを獲れるかどうかも怪しい状況でした。だから、カワサキに入った最初のレース、南アの予選で、セッション序盤に柔らかいタイヤを履いてタイムアタックに出たんです。皆がまだあまり攻めていない段階だから、僕がアタックしたら、ポン、とトップタイムになった。そしてピットに戻ってきたら、皆の雰囲気がガラリと変わっていた。口にこそ出さないけど、明らかに『オレたちもやればできるんだ』という空気になっているんです。僕にすれば、してやったりですよね。その雰囲気がほしかったんだから。結局、そのタイムはあとで皆にどんどん更新されたんですけどね」

 翌日の決勝レースは、トップから44秒背後の12位で終えた。第2戦スペインGPは周回遅れの9位。第3戦フランスGPはマシントラブルによりリタイア。

 そして、第4戦のイタリアGPを迎えた。このレースでは、最終コーナーを立ち上がってメインストレートでバイクが300km/hに到達したときに、タイヤがバーストする事故が発生した。大きな爆発音と同時にストレートが白煙に包まれ、そこを中野の体がものすごい勢いで転がっていった。コースサイドのコンクリート壁寸前で幸いにも停止し、中野自身も軽い打撲と胸部の擦過傷程度のケガで済んだのは、まさに幸運以外のなにものでもない。

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