ウィズコロナのMotoGP初戦。絶対王者は転倒し、新ヒーローが誕生した (3ページ目)

  • 西村章●取材・文 text by Nishimura Akira
  • 竹内秀信●撮影 photo by Takeuchi Hidenobu

 これに対しても、一定の配慮と対応は取られている。実況放送を担当する一方で文字原稿も多く執筆するあるイギリス人ジャーナリストは、「(衛生管理規則の要請などで)ガレージやピットボックスに近寄ることは許可されていない。また、(文字原稿取材者の活動が制限されていることを勘案して、現場からの抜け駆け的な)日々の最新記事は書かず、執筆はレースウィーク終了後の雑誌記事のみに限るとしてDORNAと合意している」と話す。国際的な取材機会の公平性を担保する妥協案として、納得できる措置といえるだろう。

 しかし、スポーツといえども報道であることに変わりはない。取材の健全性を確保するためには、独立した多様な視点の存在は必須条件だ。レース再開直後の現在はやむを得ないとしても、欧州の蔓延沈静化に応じて、数戦後には我々ジャーナリストに対しても何らかの形で取材の門戸が解放されるようになることを期待したい。

 いずれにせよ、世界的に猛威をふるう新型コロナウイルスを押さえ込むためには、レースに関わる全員が一致して協力をすることは不可欠だ。その意味では、さまざまな対応措置は、DORNAをはじめとする関係各方面が懸命に調整を図った努力の賜物といっていいだろう。

 そのような状況のもとで行なわれた日曜の決勝レース自体は、いつもと変わらない、緊張感と興奮に充ちた熱い戦いになった。

 圧倒的な強さを誇る王者マルケスは、今回も優勝候補最右翼。序盤から激しいトップ争いを繰り広げたが、果敢に攻めすぎたことで転倒しかけた。奇跡的なセーブでかわしたものの、一時16番手まで大きく順位を下げた。そこから猛追を開始し、信じられないペースで順位を上げて2番手争いまで浮上したが、今度は転倒。ハイサイドクラッシュで大きく跳ね飛ばされ、右上腕を骨折した。おそらく今後数戦の欠場は不可避とみられている。走行前に語っていた「可能な限りポイントをたくさん稼ぐ」というシーズン戦略をふいにする皮肉な結果になってしまった。

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