ウィズコロナのMotoGP初戦。絶対王者は転倒し、新ヒーローが誕生した (2ページ目)

  • 西村章●取材・文 text by Nishimura Akira
  • 竹内秀信●撮影 photo by Takeuchi Hidenobu

 ところで、当地ヘレスで開催されるスペインGPといえば、シーズン中で最も大きな盛り上がりを見せる大会のひとつだ。熱狂的な大勢のファンがヘレスサーキットの観客席をびっしりと埋め尽くす様子は、MotoGPの高い人気を表す代名詞的風景といってもいい。走行初日の金曜から決勝レースの日曜日まで、3日間の観客総動員数は毎年20万人をくだらない。

 しかし、今年は新型コロナの感染対策として、今のところすべての会場で無観客開催が決定している。また、選手やチームスタッフなどのレース関係者に対しても、入場人数の最少化や体温チェック、マスクやフェイスガードの着用、ソーシャルディスタンシングの維持など、徹底した健康管理と蔓延防止プロトコルの遵守が義務づけられている。

 このルールは取材陣にも大きな影響を及ぼしている。通常ならサーキットで選手やチームスタッフたちを取り囲んで取材する各国のジャーナリストは、全員がパドックへの立ち入りが禁止されることになった。会場に入っているのは、一握りの欧州放送局クルーや、写真撮影のみを目的とするフォトグラファーがわずか10数名という状況だ。イベントを主催するDORNA(ドルナ)としては、感染の蔓延を防ぐ最大限の予防対策を取りながら、できるだけ正常に近い形でレースを運営するためのソリューションとして、これらの措置を取るに至った。

 ただし、我々レースを取材する側からすれば、通常行なう活動ができなくなるわけだから、正直なところ、日々の取材に不便をきたす。そこでDORNAと各チームは、各種記者会見や選手の囲み取材について、Zoom(ズーム)を利用しリモートで行なう対応を取った。多少の隔靴掻痒(かっかそうよう)感はあったものの、世界の頂点を争う選手たちとパソコン画面上で話をする機会は奇妙に新鮮で、ソーシャルディスタンスを感じさせるどころか、むしろ身近な距離感も覚えたことは新しい発見だった。

 他方、職掌柄パドックへの立ち入りを許可されている放送関係者らと、それを許されていない紙誌・ウェブ媒体のジャーナリストの間では、取材機会に多少の差が生じる危惧がある。

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