MotoGPファクトリーチームが揉めている。火種になったライダーの未来は (5ページ目)

  • ニール・モリソン●取材・文 text by Neil Morrison
  • 竹内秀信●撮影 photo by Takeuchi Hidenobu

(フェロンといれば)気持ちが落ち着いたのかもしれないし、『そんなふうに言っちゃいけない』とローレンが教えていたのかもしれない。ローレンはいつもガレージでヨハンをよく見ていたから、ヨハンが何か叫びだしそうになると、こうやって(と口にチャックをする仕草をする)戒めていたんだと思う。たぶんね」

 昨年11月からこの9月まで、不幸な結婚を示す兆候はいたるところにあった。なかでも顕著だったのは、ヘレス(第4戦・スペインGP)のあとに行なわれた事後テストでの出来事だ。

 ザルコは囲み取材に白いTシャツ姿で現れた。その際に、メディア対応は常にチームウェアを着用するという契約条項を指摘され、驚いたようなそぶりで舌打ちして、チームウェアを取りにいった。「自分がチームにしてほしいと思っていることを我々ができていないと感じたら、いつもああやってちょっとした反抗をしてみせるんですよ」とは、あるチームスタッフが明かしたことばだ。

 ポル・エスパルガロのアプローチと比較してみよう。クルーチーフのニュージーランド人、ポール・トラヴァソンは、エスパルガロの性格を「ポップコーンが弾けたような」(賑やかで明るい)性格だと評する。

「あれがいいんですよ」と、クルーチーフ就任当時にトラヴァソンは話していた。「今の我々は厳しい時期だから、ああいう性格は本当にありがたいんです。ポルのコメントを聞いたあとなんて、エンジニアたちの足取りが軽くなっていますから」。

 だからといって、ザルコの人格に難があるわけではない。じっさいはその真逆だ。ザルコはいつもメディアと接する際には、丁重で礼儀正しい態度を示してくれる。

 彼の例はむしろ、ファクトリーライダーとして要求される物事やプレッシャーが耐えがたいほど大きいことの証左だろう。プロジェクトを前進させてゆくためには、サーキット内外を問わず、常に並外れた人格者でいることを求められるのだ。

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