エアレース開幕戦で室屋義秀が完全優勝。「新ルール」に見事に適応 (3ページ目)

  • 浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki
  • photo by Andreas Schaad/Red Bull Content Pool

 新しいG基準のなかで、難しい風の状況にどう対応すればいいのか。その点において、チーム・ファルケンのタクティシャン(分析担当)、ベンジャミン・フリーラブの指示は、迅速かつ的確で、しかも断固としていた。

「もう風向きは(予報通りには)変わらない。しかも、かなり強くなっている。(ゲート14に入るときに)角度はとるな。ラインを開け」

 以下は室屋の述懐だ。

「レース直前は、あまりごちゃごちゃ言われても頭に入らない。だから、ベンは『とにかく、ここの(ゲート14に入る)ラインだけは気をつけろ』と。ラインを変えることでタイムはだいぶ落ちたが、ベンの判断があったからノーペナルティで飛べたし、最終的に勝つことができたんだと思う」

 この日行なわれた、ラウンド・オブ・14からファイナル4までのフライトだけでなく、予選の2本も含め、今回の開幕戦で一度もペナルティを受けなかったのは、全14パイロットのなかで室屋ただひとりである。

 いかにオーバーGの新ルールに対応するか。それが今季開幕戦のキーファクターだった。というより、2019年シーズン全体を占ううえでも、それがカギを握ることになるのかもしれない。

「昨季は2戦連続オーバーGで負けたりして、結果だけを見れば厳しいシーズンだった。でも、そのおかげでG対策を研究してきたし、それが今季に生かされている」

 そう語る室屋は、予選1位で獲得した3ポイントと合わせ、このレースで28ポイントを獲得した。だが、単にポイントリーダーというだけでなく、レース内容という点でも他を一歩リードしていると言っていい。室屋の安定したフライトは、新ルールへの適応があればこそ、だった。

 ただし、他のチームも当然、このままでは終わるまい。対策は間違いなく進む。一歩先を行く室屋のリードが、いつまで続くのかはわからない。

 実際に、ファイナル4のフライトでは、ゲート13からゲート14を抜け、フィニッシュゲートへと続くセクションで、2位のマルティン・ソンカは室屋よりも0.2秒以上速いタイムを記録している。

「おそらくソンカは、このコンディションでも(新ルールに適応したベストの)ラインがわかっていた。(3位のマイケル・)グーリアンもそう。チームのタクティシャンが気づいていたんだと思う」

 レッドブル・エアレースにおいて、レース分析の重要性が説かれるようになって、すでに久しい。だが、今季はオーバーGのルール変更があったことで、これまで以上にレーストラックの分析力が勝敗を分ける要素になるのだろう。

 今季のレッドブル・エアレースは、パイロットのスキルだけでなく、チームとしての総合力がより一層問われるシーズンになりそうだ。

3 / 3

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る