戴冠を決めたハミルトンにベッテルが「辞めるな」と言った理由 (5ページ目)

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki
  • 桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

ファンに抱えられたハミルトンは「5度目」をアピールファンに抱えられたハミルトンは「5度目」をアピール だからこそ、ベッテルに対して批判の声が高まったとき、ハミルトンはSNS上でベッテルのことを批判する者たちに苦言を呈した。自分たちの戦っている世界がいかに過酷で高度なものか、それは当事者にしかわからないはずだと。

 それはハミルトン自身が、ベッテルという好敵手がいてくれたからこそ、ここまで成長してこられたのだと、誰よりもよくわかっているからだ。そしてそれは、ベッテルも同じだ。

 メキシコGPの戴冠直後に「辞めないでくれよ」とベッテルに言われたハミルトンには、その思いが痛いほどわかっている。

「彼があれだけすばらしい競争相手でいてくれたことに、心から感謝している。彼のすばらしいスポーツマンシップであり、僕らの間にある互いのリスペクトの念だ。今シーズン、ずっと僕らの間にはそれがあった。

 彼は今日だって、ファンタスティックなドライビングをしていた。フェラーリという名門で、何年も栄冠から遠ざかっているなかで戦うプレッシャーは、ひとりの人間の肩で背負うにはあまりにも重すぎる。

 しかし彼は、どれだけつらい局面に直面してもそこから立ち上がってきた。まさしく今日のレースのようにね。彼が日々強さを増していることも知っているし、だからこそ僕も立ち止まることなく、自分を鼓舞し続けることができたんだ」

 彼らはこれまでになく高い次元で戦い、自らを磨いてきた。そこには、その次元で戦う者にしかわからない世界がある。だからこそ彼らは、互いにリスペクトし合い、互いの存在に感謝する。

 彼がいたからこそ到達することのできた高み。5度目の戴冠を果たしたハミルトンを、4度の王者ベッテルが祝福し、互いが互いを尊敬し求め合う。常人には計り知ることのできない世界が、そこにはあった。

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