室屋義秀が乗り越えようとしている、「エアレース王者」のプレッシャー (2ページ目)

  • 浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki

 とはいえ、だとしても、だ。

 今季第7戦が行なわれたインディアナポリス・モーター・スピードウェイで、室屋は昨季、最終戦での奇跡の大逆転劇を演じ、初の世界チャンピオンの座に就いた。

 あれから1年。思い出の地で行なわれたレースを前に、室屋はすでに優勝争いから脱落していたばかりか、今回のレースでもひっそりと初戦で敗退した。あまりに鮮明で、残酷なまでの明と暗をわずか1年の間に見せつけられ、あらためて勝負の世界の厳しさを思い知らされると同時に、少なからず寂しさも覚える。

 振り返れば、室屋にとって今季は、ディフェンディングチャンピオンであるがゆえのプレッシャーとの戦いだった。

 室屋は「どのスポーツでもチャンピオンはそうだと思うが、歩いていた道が(目標にたどり着き)急に行き止まりになるようなものだから。道がないのに、でも、周りの人たちには後ろから『行け!』と押される。それはなってみないとわ分からなかった世界だし、そこでは、精神的にいろんなものが求められる。言葉では説明できない難しさがある」

 それは、室屋本人だけのことではない。チームスタッフもまた、同じくディフェンディングチャンピオンなのである。室屋が続ける。

「優勝すると、やっぱりチームだけでなく、周辺の人も含めて特別な雰囲気ができるので、スタッフにもプレッシャーはあったと思う。そこから先へ進むのは、ものすごく大きなエネルギーが必要だし、他のチームの人たち以上に、難しさがあったと思う。マティアスのところもそうだと思うけど」

 室屋が言うように、一昨季に年間総合優勝を果たしたマティアス・ドルダラーも、昨季、そして今季と苦しいシーズンが続いている。勝つことが当たり前に期待されるなかで、勝ち続けることの難しさ。彼もまた、室屋と同じ悩みを抱えているのかもしれない。

残る1戦、そして来季での完全復活が期待される photo by Mihai Stetcu/Red Bull Content Pool残る1戦、そして来季での完全復活が期待される photo by Mihai Stetcu/Red Bull Content Pool それでも室屋は、「ようやくカザン(での第5戦)あたりから、(プレッシャーから)抜け出せてきているというか、乗り越え方がおぼろげながら見えてきたというか、そういう感じがある」と、わずかながら前進している手応えを得ている。

「ここを完全に抜け出すことで、どんな競技にもいると思うけど、絶対王者と呼ばれるような、引退するまで全然負けないチャンピオンになっていけるんだと思う」

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