奇跡はならずも室屋義秀は笑顔。エアレース第6戦で泥沼から抜け出す (2ページ目)

  • 浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki

 奇跡が起こることを予感させたのは、室屋の安定したフライトだけが理由ではない。ランキングでトップに立つグーリアンが、まさかのミスでラウンド・オブ・14敗退に終わっていたのである。

 今季全5戦すべてでファイナル4に進出し、圧倒的な安定感を見せていたグーリアンの自滅。誰も予想できなかった展開は、あたかも奇跡の実現を後押ししているかのようだった。

 そして迎えたファイナル4。優勝だけに狙いを定め、最初に飛んだ室屋は59秒324を記録。「これなら表彰台には立てるだろうが、優勝はどうか。かなり際どいタイムだなと思っていた」(室屋)。

 室屋が次戦以降に連覇の望みをつなぐためには、ここで優勝するしかない。ソンカ、ホールのいずれか一方でも室屋を上回れば、その時点で連覇の可能性は完全に消える(室屋とのポイント差が最少でも30に広がり、残り2戦でポイントは追いつくことができるが、その場合、優勝回数が多いほうが上位となるため)。

 続いて飛び立ったソンカは、3度の中間ラップすべてで室屋に後れを取ったまま、最後のバーティカルターンへ。室屋が逃げ切る! そんな空気が満ちたそのとき、「マルティンは目一杯リスキーなラインに入っていった」(室屋)。強引なまでの荒業を繰り出したソンカが、わずか0.036秒差で室屋を差し切った。

 王座陥落。世界チャンピオンの年間総合連覇が完全に絶たれた瞬間だった。室屋が振り返る。

「もちろん、自分も最後のバーティカルターンでもっとリスクを負えば、マルティンを逆転できた可能性はある。でも、それは結果論だから。自分たちにはそこまでの作戦はなかったし、それがベストの選択と思ってやったことだから」

 続くミカエル・ブラジョー、ホールは、いずれも室屋のタイムに届かず、ソンカの優勝、室屋の2位が決まった。トップのソンカから3位のホールまでのタイム差は、実に0.083秒差という稀に見る接戦だった。

「3人とも限界を競い合ってのあのタイム差だから。久しぶりにレースが楽しかったし、特にファイナル4はおもしろかった」

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