新尾翼を投入→やっぱやめた。エアレース室屋義秀の惨敗を招いた迷い (3ページ目)

  • 浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki
  • photo by Joerg Mitter / Red Bull Content Pool

 何よりその印象を強めたのは、ラウンド・オブ・14での敗退がオーバーGによるDNF(最大荷重制限の12Gを超えた失格)によるものだったことだ。

 室屋は一昨季の序盤戦で、立て続けにオーバーGによる敗退を経験。その反省から、Gをかけるトレーニングをひたすら繰り返し、オーバーG対策を体に叩き込んだ。その結果、「最大荷重制限ギリギリまで攻めることなく、余裕を持ってGをコントロールできている」と言うまでになった室屋は、昨年開幕戦以来、(公式練習を除けば)オーバーGを経験していない。

 そんな室屋が"失態"を犯したのである。レース途中で垂直尾翼を元に戻したとしても「操縦にほぼ影響はない」と考えての決断だったが、操縦感覚が微妙に狂わされた結果だと見るのが妥当だろう。

 それほどのリスクを負ってまで、なぜ室屋はこのタイミングでの投入にこだわったのだろうか。

 そこにあったのは恐らく、年間総合2連覇への危機感だ。地元開催ゆえのプレッシャーや、3年連続優勝を期待されることの重圧よりも、そのことのほうが大きかったのではないかと思う。

 室屋自身、千葉戦で勝つことだけを考えるなら、ここでの垂直尾翼の投入が得策でないことは重々承知していた。これまでにないほどの大きな注目を集めるヒーローは、しかし、拍子抜けするほど地元開催のレースに(いい意味で)頓着していなかった。

 しかし、今季2戦を戦ってみて、自分なりに安定したフライトができてはいたが、他のパイロットたちが予想以上に速くなっていることに、焦燥を募らせていた。

 当初の予定通り、エンジンカウルの改良には成功した。だが、彼らよりもう一歩、いや、半歩でも前に出るための決定打が欲しかった。そんな焦りが投入を急がせたのではないだろうか。

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