ハミルトンの策謀にも慌てず騒がず。ロズベルグが初のF1世界王者に

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki

 アブダビの空がトワイライトに染まる午後5時に始まった2016年の最終戦アブダビGPは、陽が沈み、サーキットが人工照明に照らし出された残り6周というところで、急激に緊迫の度合いを増していった。トップ4台が、2.9秒にひしめく――。それは、このレースの勝者だけではなく、2016年のチャンピオンを巡る争いだった。

初のF1ワールドチャンピオンに輝いたニコ・ロズベルグ初のF1ワールドチャンピオンに輝いたニコ・ロズベルグ 首位ルイス・ハミルトンは「優勝」が絶対条件。そのうえで、2位を走るニコ・ロズベルグが4位以下に終われば、大逆転でタイトルを勝ち獲ることができる。逆に選手権をリードするロズベルグは、3位以内で表彰台にさえ立てばタイトルが決まる。

「ルイス、このレースで勝つにはペースを上げる必要がある。1分45秒1で走ってくれ。これは指令だ」

 メルセデスAMGのピットからは、再三にわたりハミルトンに無線が飛んだ。実力を発揮すれば、メルセデスAMGの2台がライバルたちに大きく先行し、自身が優勝してもロズベルグが4位以下に落ちる可能性は極めて低い。だから、ハミルトンはあえてペースを落として走り、2位のロズベルグを抑えながらレッドブルやフェラーリをも引き寄せてロズベルグにアタックさせたのだ。

 これを「汚い」と罵(ののし)る者もいた。3位まで追い上げてロズベルグの背後につけたセバスチャン・ベッテル(フェラーリ)でさえも、内々には「ルイスがダーティなトリックをしている」と表現した。

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