【F1】岐路に立つ可夢偉。来季のカギを握るのはホンダ (4ページ目)

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki

 もしホンダが可夢偉を何らかの形で起用するのなら、それは可夢偉を絶望的な状況から救うことになる。それは日本のファンのためにもなり、日本人F1ドライバーの道がつながることで、日本におけるF1の地位向上にもつながり、そしてF1を目指そうという若いドライバーのためにもなる。

 いわば、ホンダも可夢偉もファンも得をする、「WIN-WIN-WIN」の関係になるのではないだろうか。

 可夢偉がトヨタの育成プログラム出身だという事実が引っかかると言われているが、ホンダがF1復帰にあたって掲げた「勝利」という目標を本気で目指すのなら、過去のしがらみにとらわれず、自分たちにとって最も有益な選択肢を選ぶべきだ。そして、F1に参戦し日本のファンの夢を背負ってやろうという気概があるのなら、変なプライドは捨てて手を結ぶべきだろう。可夢偉はF1にデビューした2010年以来、もう何年も自力で戦い抜いてきたF1ドライバーであり、トヨタのドライバーではないのだから。

 かつてないほどの絶望的な状況に置かれてもあきらめず、F1に残るために全力を尽くすと可夢偉は決めた。他カテゴリーで走ってプロのドライバーとして稼ぐことや、レーシングドライバーを辞めるという選択肢もあった。しかし、それは可夢偉の生き方ではなかった。

「ファンの人たちにも周りにもいろんなことを言う人はいるし、『もう十分でしょ』って言う人も多いです。僕にとっては、別の人生を生きようと思えばもっと簡単な道もあったと思います。だけど、まだまだ自分の中でチャレンジをして子どもの頃に見ていた夢を歩んでいきたいと思ったんです。子どもの頃に少しでも速く走りたい、エキサイティングなレースをしたいと思った、その夢を叶えるために僕はここにいるんです。良いクルマにさえ乗れれば、勝つだけの力はあると思うから……」

 オースティンの真っ青な空をバックに、可夢偉は言った。その言葉に込められた思いには、一点の曇りもなかった。

 F1で勝つこと、チャンピオンになること。目指すべき夢は、可夢偉もホンダも、そして日本のファンも同じだ。それならば、今は同じ夢に向かってファンのために互いに手を取り合って一歩前に進んでも良いのではないだろうか。

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