【F1】崩壊寸前のチームで奮闘。可夢偉は鈴鹿で走るのか? (3ページ目)

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki 桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

「1周アタックをした後で1周休んで(ゆっくり走った後に)、もう1回アタックすれば前後のバランスが取れた状態でアタックできるんです。そうすると、うまく1周がまとめられるっていうことです」

 そんなマリーナベイ市街地サーキットでのドライビングには細心の注意が必要になる。

 エンジントルクが太いうえにダウンフォースが少ない今年のマシンは滑りやすく、滑ればタイヤ表面がオーバーヒートしてグリップを失う。さらに夜の走行とはいえ気温は30度、湿度は80%を下回ることがないので、コクピット内の暑さと湿度がドライバーの体力と集中力を奪っていく。メルセデスAMGのようにスムーズに走ることのできるクルマならまだしも、ケータハムのような跳ね回るマシンでは、ドライバーは必要以上に体力を消耗する。

 体力には自信がある可夢偉でさえ、シンガポールでの2時間に及ぶ61周のレースは厳しいだろうと言う。

「今年一番タフですね。暑いし揺れるしクルマも酷いし、みんなヘロヘロですからね。ホンマにズルズル滑るから、1回ラインを外したりスピンすれば、タイヤがオーバーヒートしてグリップが一気に落ちるし、そのまま次のコーナーでブレーキを踏んだらもうドリフトですから。61周っていうのはキツいと思いますよ、僕的にはそれがちょっと心配ですね」

 だが可夢偉の決勝レースは、1周も走ることなく終わってしまった。

 フォーメーションラップでパワーユニットが不可解な挙動を示し、マシンを停めざるを得なかった。トラブルの詳細は分かっていないが、スターティンググリッドについてからルノーのエンジニアたちがコンピュータを接続して慌ただしく作業を行ない、何度もエンジンに火を入れては止めるということを繰り返していたことと無縁ではないように思われる。おそらくはスタート前からトラブルの予兆が出ていたのだろう。

「まずエンジンパワーがなくなって、何かが燃えているような匂いがして煙が見えて、最後にブレーキがなくなった。それを全部無線で言ったんですけど、何も返事が返ってこないから、勝手に止めました。僕にはどうしようもないし、危なすぎますから」

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