【F1】王者ベッテルを唯一苦しめたグロージャンと小松礼雄 (3ページ目)

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki  桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

 ロータスのマシンがタイヤに優しいことは事実だ。今のグロージャンは、ライコネンよりもうまくタイヤをマネジメントして、より長く保たせることができるという。しかも、可能な範囲内で最大限にプッシュをしながらだ。

 スタートからわずか2周でベッテルがソフトタイヤを“捨てた”インドGPで、グロージャンは最後方から他車を次々と抜いてタイヤを酷使しながらも、13周も保たせた。そして残りの47周を1セットのタイヤで走り切ることにも成功した。

「キミのタイヤが結構早めにタレていたのに対して、ロマンはうまくマネジメントしていました。ブッダ・サーキットで気をつかうのは、フロントだけとかリアだけではないんです。低速コーナーではリアをいたわらなきゃいけないし、ターン10から11、15みたいな高速コーナーではフロントをいたわらなきゃいけない。それを全部やって、タイヤの性能を残したからこその結果(3位)です」

 また、シーズン後半戦に入って以来、ライコネンに対するチームの信頼感は揺らいできている。それと同時に、飛躍的な成長を遂げているグロージャンに対するチームからの期待は大きい。

 小松は、現時点ではライコネンよりもグロージャンの方がドライバーとして上だと断言した。

「そりゃロマンの方が上でしょう。今まで差があったのはレースの組み立てですよね。今でもキミはうまいと思いますよ。シンガポールや韓国にしても、セーフティカーに助けられたとはいえ、キミは気付けば上位にいるわけですからね。ミスもしないし、すごいですよ。でも、ロマンだってミスしないし、予選も速くなった」

 10月の韓国GPではベッテルと優勝争いを繰り広げながらも、セーフティカーからのリスタートでライコネンに抜かれてベッテルへの挑戦権を失った。レース後、小松は怒りに震えていた。

「週末ずっと完璧にやってきて、あのレースはベッテル対ロマンの戦いだったわけですよね。それなのにセーフティカーで後ろとの差が詰まって、くだらないミスをして抜かれたわけだから、むかつきますよね。ただし、ロマンに対してむかついたというのではなくて、みんなチームだから、チームの一員としてむかつきましたね。でも、そういうミスから学んで次に生かせればいいわけだから」

 そうやってグロージャンと小松はともに成長してきた。「レースエンジニアが僕なのに、彼はこれだけ活躍しているんだから、すごいでしょ」と小松は冗談交じりに謙遜して言うが、このコンビが今のF1界においてトップクラスのドライバーとエンジニアとみなされ始めていることは否定しようのない事実だ。

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