【F1】シート獲得への第一歩。可夢偉がフェラーリファミリーの一員に (2ページ目)

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki

 可夢偉はロータス入りの可能性が絶たれた昨年末から、マリオ宮川を代理人として上位チームのテストドライバーになるべく交渉を続けてきていた。フェラーリとの交渉は元々、昨年11月末の段階で可夢偉が離別を決めた元マネージャーの有松義紀がドメニカリとの間で進めていたものだった。1月中旬の段階では、宮川は「なんとか1月中には話をまとめたい」としていたが、結局は具体的な発表がないまま2月を迎えてしまった。

 ちなみに宮川はこの時、「他カテゴリーからのオファーもあったが、すべて断った。可夢偉はまだF1にいるべきドライバーだから」と語っていた。しかし2月上旬には急転直下、可夢偉はスペインでAFコルセのテストに参加した。

 スクーデリア(F1チーム)の方では、可夢偉のテストドライバー就任の障壁となっていたフェラーリの一員であるジュール・ビアンキのフォースインディア入りがなかなか決まらず、最終的にビアンキはマルシアからの参戦が決まるという、二転三転の状況があった。

 その中でドメニカリは「レースドライバーに万一のことがあった場合は、現状ではペドロ(デ・ラ・ロサ)を起用することになる」と、1月に開発ドライバーとして起用したデ・ラ・ロサの存在に言及していた。

 ただし、フェラーリの公式的なスタンスは「伝統的にリザーブドライバーというものは存在しない。デ・ラ・ロサは複数いるテストドライバーのうちのひとりであって、それ以上でもそれ以下でもない」というものだった。

 デ・ラ・ロサはマクラーレンでの経験が買われてシミュレーター開発のために起用されたドライバーであり、実践的な走行やレースへの起用を想定に入れた存在ではない。ドメニカリの先の発言は「交渉の駆け引きのひとつだろう」と宮川も見ていた。つまり、まだ可夢偉にもテストドライバー就任のチャンスはあるというわけだ。

 2月下旬の時点では、すでにフェラーリと契約済みとの話も聞こえてきていたが、それは今回のWEC出場に関するものだったのだろうか。3月1日の時点でF1内部関係者に通達されたレース&テストドライバーやマネージャーのリストには、可夢偉の名前は掲載されていなかった。

 F1のテストドライバーにせよF1以外のカテゴリーにせよ、それは本来、可夢偉が望んでいたものではない。しかし、現状を見渡して2014年以降にF1のレースシートへ戻ってくる道筋を考えた場合、厳しい状況下でも最低限のスタート地点に立てたことは事実だ。何より、フェラーリとのコネクションを築いたことには大きな意味がある。

 だからこそ今は、可夢偉にとっても応援するファンの側にとっても、WECでの活躍云々だけではなく、F1復帰に向けたさらなるステップを目指さなければならない時だ。F1という夢を諦めない可夢偉には、その道筋が見えているはずだ。

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