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ウマ娘でも闘争心全開で走り抜けるタマモクロス。天皇賞・秋は語り継がれるべき「芦毛の名勝負」だった (2ページ目)

  • 河合力●文 text by Kawai Chikara
  • photo by Kyodo News

 なかでもすさまじいのは金杯(西)だ。直線入口ではほぼ最後方のインコース。目の前には10頭以上の馬群。行き場がなく、絶体絶命のピンチだった。

 だが、闘志に火がついた芦毛の馬体は、目の前の隙間を縫って縫って一気に差を詰める。そして最後は、内ラチと先頭の馬の間にできたスペースを一瞬で突いて抜け出したのだ。

 あっという間の出来事。少し前にはほぼ最後方にいた馬が、馬群をかき分けて先頭でゴールした。実況も思わず「これはすごい競馬です」と漏らしたほど。他馬を怖がっていた小さな体のタマモクロスが、誰にも負けない闘争心を身につけていたのだ。

 これらの走りから、いつしか「白い稲妻」と呼ばれるようになる。実はこの異名、同馬の父シービークロスが呼ばれていたもの。同じく芦毛の馬体、追い込みの脚質からそう名づけられたが、息子もまさに稲妻のような末脚を見せたため、この異名を受け継いだ。ウマ娘でのキャッチフレーズは、もちろんこれが由来である。

 こんなレースができる馬なのだから、GⅠでも力は上だった。大舞台でも連勝をさらに伸ばし、GⅠ天皇賞・春、GⅠ宝塚記念と立て続けに制したのである。連勝記録は7に伸びていた。

 向かうところ敵なし、一瞬で競馬界を制圧した白い稲妻。と思いきや、同時代にこの馬と互角以上の快進撃を見せる馬がもう1頭いたのだから面白い。そう、オグリキャップである。

 同じ芦毛の馬体を持つオグリキャップは、地方から移籍した経歴を持つ。そして、その地方時代からあわせて14連勝という破竹の走りでファンを虜にしていた。

 ともに小さな牧場に生まれ、エリートにはない猛々しさがあった2頭。この2頭が戦ったらどちらが強いのか。どちらが連勝を伸ばすのか。ファンの想像が膨らむなか、直接対決が実現したのが、1988年10月30日、天皇賞・秋である。

 戦前の下馬評は、オグリキャップが1番人気。タマモクロスは2番人気でレースを迎えることになる。

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