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【競馬】藤田伸二騎手、突然の引退に想う「忘れられないレース」 (4ページ目)

  • 新山藍朗●文 text by Niiyama Airo
  • photo by Kyodo News

 藤田騎手がダンスインザダークの武豊騎手を視界にとらえるのは、1コーナーから2コーナーにかかるあたり。ここからの、藤田騎手の腹のくくり方がすごかった。

 道中スローペースで、無理に動こうとする馬もいる中、藤田騎手は「ここがベストポジション」とばかりに、まったく無駄な動きをしなかった。おそらくは、この道中の、迷いのないスムーズな追走が、実況アナウンサーが「音速の」と称えた、ゴール前の強烈な末脚を引き出したに違いない。

 この藤田騎手の腹のくくり方、言いかえれば、勝負に行っての度胸のよさが、「男・藤田」と称されるゆえんなのだと思う。

 私生活では、性格的な問題が指摘されたり、暴力事件を起こして騎乗停止になったりするなど、いわば“問題児”という一面もあった。しかし、それらを含めても、「藤田が好きだ」「馬券は藤田から買う」という根強いファンがいたことも、また事実だ。

 競馬サイトで表明した藤田騎手の言い分を、そっくり肯定はできないとしても、藤田騎手のような個性派が生き残れないような組織は、やはりどこかに組織としての問題があるのではないか。

 1918勝もの勝ち鞍を積み重ねた名ジョッキーなのに、引退式も、引退会見もない――らしい、と言えば、らしいが……。

 25年間、お疲れさまでした。

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