2014.08.31

【競馬】生産者が異論を唱えたダービー馬の無謀な挑戦

  • 河合力●文 text by Kawai Chikara
  • photo by Getty Images

『パカパカファーム』成功の舞台裏
連載●第40回

2012年の日本ダービーを制したディープブリランテ。通常、ダービー馬となれば、その後は休養に入って秋に備える。しかし同馬は、大胆にも海外のGI出走を果たした。ダービー制覇に沸いていた生産牧場であるパカパカファームのスタッフたちは、その挑戦を心配そうに見守っていた――。

 ディープブリランテがダービー馬となって、一躍脚光を浴びたパカパカファーム。レースから約1カ月半後の7月中旬になっても、生産馬のダービー制覇による喧騒が続いていた。牧場には連日、馬を見に来るバイヤーやメディアがひっきりなしに訪れていた。代表のハリー・スウィーニィ氏は、その対応に追われていたという。

「夏場はセールの準備などがあって、いろいろと忙しいシーズン。ですから、この頃はかなり大変でしたよ。昼間はバイヤーの方々の相手をしなければいけませんから、メディアの方には『仕事があるから、取材は午後7時以降でお願いしたい』と言ったこともありました(笑)。でも、それだけ注目されるようになったのは、とてもうれしかったですね」

 そんな中、ダービーを制したディープブリランテは、早くも次のレースに向けて動き出していた。その目標は、異例とも言える大胆なものだった。なんと、7月21日に行なわれるイギリスのGI、キングジョージ6世&クイーンエリザベスS(イギリス・アスコット競馬場・芝2400m)への参戦である。

 日本の競馬ファンから「キングジョージ」の愛称で親しまれるこのレースは、中長距離路線における”上半期の総決算”。10月の凱旋門賞と双壁をなす、ヨーロッパ最高峰のGIであり、そこには世界の強豪が集結する。ディープブリランテは、この舞台に立つことが決まったのだ。

 ダービーを勝ったばかりの3歳馬による、異例の挑戦。スウィーニィ氏は、「正直なところ、この臨戦過程については疑問を感じていました」と、当時を振り返る。

「チャレンジすることは大切ですが、この挑戦はちょっと厳しい気がしましたね。ダービーではうまく折り合えたものの、ヨーロッパのレースは、日本と比べ物にならないほどスローペースです。その中で、ブリランテが周囲のペースに合わせて折り合えるイメージがわきませんでした。ですから、キングジョージに挑むことを聞いたときはビックリしましたし、『さすがにノーチャンスかな』と感じました」