【競馬】ブリランテのダービー制覇を目撃した生産者の「心中」

  • 河合力●文 text by Kawai Chikara
  • JRA●写真

 馬群が3コーナーから4コーナーへと進んでいく中、いち早く動き出したのは、2番手のトーセンホマレボシだった。同馬は逃げ脚を伸ばそうとするゼロスに並びかけていった。

 このとき、3番手のディープブリランテは先頭から5、6馬身離れた位置を追走。だが、手応えは絶好で、4コーナーで岩田康誠騎手がゴーサインを出すと、前との差を一気に詰めていった。ワールドエースとゴールドシップは、まだ後方馬群の中だった。

 そして、迎えた直線入り口。伊藤氏がそのシーンを振り返る。

「直線に入ったときは、とにかく『ゆっくり仕掛けてくれ』と、そればかり思っていました。大一番ではいつも、最後にどうしてもかわされてしまうので......。少しでも仕掛けを遅らせられれば、『善戦できるかも』と考えていました。ただこのときも、勝つことはまったく頭にありませんでした」

 最後の直線の攻防。外に持ち出したディープブリランテは、一歩ずつ先頭との差を詰めていく。残り300mの地点では、先に抜け出していた先頭のトーセンホマレボシに並びかけた。

 自らが携わった生産馬が、ダービーの直線で先頭に立とうとしている。しかしそこまできても、伊藤氏は"勝利"というものを意識できなかったという。

「ダービーを勝つなんていう出来事が本当に起こるのか、と。そんな信じられない夢のようなことが現実になるのだろうか、と思っていました。レース前から、その感覚はずっとありましたね。ですから、実はこのときだけ、購入した馬券はディープブリランテの"複勝"だったんです。皐月賞まではずっと単勝だったんですが、このときだけは複勝......。給料日前だったという事情もありましたが(笑)、それよりも『ダービーを勝つ』ということが想像できなかったんです」

 最後まで「勝利を想像できなかった」という伊藤氏。まさしくそれが、生産者だからこそ感じる、日本ダービーの"重み"なのだろう。

 一方で、伊藤氏の隣でレースを見守っていたスウィーニィ氏は、ディープブリランテが先頭に並びかけた瞬間から「勝てるかもしれない」と声を張り上げたという。

「残り300mからは、とにかく必死に応援しました。でも、岩田騎手の騎乗フォームがいつも以上に激しかったので、『落ちてしまうんじゃないか』と心配にもなりましたね(笑)。ですから、『ゴー、ブリランテ!』という掛け声とともに、『岩田さん、落ちないで!』と絶叫していましたよ」

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