【競馬】牧場長に高いワインを2本も空けさせた「衝撃のレース」
『パカパカファーム』成功の舞台裏
連載●第31回
2011年10月のデビュー戦を完勝し、競走馬として最高のスタートを切ったディープブリランテ。さらに圧巻だったのは、2戦目で挑んだ重賞レースだった。「ダービー候補」という評価まで得たこのレースを、生産牧場であるパカパカファームの人々はどう見ていたのだろうか。当時を振り返る――。
デビュー前から注目を集めていたディープブリランテは、そんな周囲の期待に応えて、新馬戦(2011年10月1日/阪神・芝1800m)を快勝。2着に5馬身の差をつける圧勝劇を演じた。そして注目の2戦目は、それからおよそ1カ月半後のGIII東京スポーツ2歳S(11月19日/東京・芝1800m)に決まった。
東京スポーツ杯2歳Sは毎年、翌春のクラシックを意識した有力馬や評判馬が集結。関係者の間でも注目度が高い2歳馬の重賞だ。実際にこの年も、GIIIの新潟2歳Sで2着したジャスタウェイ(のちに2013年天皇賞・秋を制覇)をはじめ、GⅡのデイリー杯2歳Sを制したクラレント(2014年3月までに重賞4勝)など素質馬が顔をそろえて、早くも「クラシック前哨戦」のような雰囲気が漂っていた。
そうした状況にありながら、すでに重賞で好走している馬を差し置いて、ディープブリランテが1番人気に支持された。レース直前の単勝オッズは、2.4倍。新馬戦に引き続き手綱をとることになった岩田康誠騎手が、デビュー戦の勝利後に「素直で反応も良く、期待どおりの走り。今のところ注文はない」とコメントしたことも、人気を後押しした。
ディープブリランテを生産したパカパカファームのスタッフも、もちろん大きな期待を抱いてレースのスタートを待っていた。ここを勝てば、間違いなくクラシックが見えてくる。フォーリングマネージャー(生産担当)の伊藤貴弘氏も、レース数日前から「力が入っていた」という。しかしその反面で不安もあった。
「新馬戦を勝って、いきなり重賞レース。それも素質馬が集まる一戦ですから、『そんなに甘くはないかな』という考えがありました。まだ2戦目ですし、勝つのはそう簡単ではないと......」
キャリアの浅さは、時として大きなハンデになる。しかも、レース当日の東京競馬場は大雨。芝コースは水分をたっぷりと含んだ不良馬場だった。まだ2回目のレースであるディープブリランテにとっては、あまりに過酷な条件となった。
「レース前日までは、それでも期待が上回っていたのですが、当日の雨を見てかなり弱気になりました。ディープインパクトの仔は、乾いた馬場のほうが得意な印象がありましたから。それに、まだレース慣れしていない中でこの条件は、さすがに『厳しいかな』と感じました」(伊藤氏)
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