【競馬】凱旋門賞へ、キズナ、オルフェが見せた底知れぬ「能力」

  • 土屋真光●文 text&photo by Tsuchiya Masamitsu

 日本調教馬の、悲願の凱旋門賞制覇に向けて放たれた"2本の矢"が、凱旋門賞と同じコース(フランス・ロンシャン競馬場)、同じ距離(芝2400)で行なわれた前哨戦で、見事に的の中心を射抜いた。"第1の矢"であるキズナ(牡3歳)がニエル賞(3歳馬限定)を、"第2の矢"であるオルフェーヴルが(牡5歳)フォワ賞(4歳馬以上)を快勝したのだ。しかも、それぞれが抱えていた課題を一掃する内容だった。

凱旋門賞の前哨戦となるニエル賞で、大外から突き抜けていったゼッケン8番のキズナ。凱旋門賞の前哨戦となるニエル賞で、大外から突き抜けていったゼッケン8番のキズナ。 前日までパリ特有のしとしとした雨が降り続いたのが嘘のような快晴の中、凱旋門賞の前哨戦デー(現地9月15日)は幕を開けた。

 日本から放たれた"第1の矢"は、今年の日本ダービー馬キズナ。同馬にとって、今回のニエル賞は初の海外レース。さらに、ひと夏を越えて、およそ3カ月半の休み明けの復帰戦となる。そのうえで、抜群のキレでダービーを制した脚は、パワーを要求される馬場適性があるのか? 3歳馬には酷とされる58kgという斤量を克服できるのか? この前哨戦は、まさにあらゆることが手探りの状況だった。

 そしてレース前、キズナを管理する佐々木晶三調教師も、レースに向かう愛馬の状態に物足りなさを感じていた。
「いつもよりおとなしい雰囲気で、ダービー当時と比べてもちょっと......」

 決して馬の仕上げに手を抜いてきたわけではないが、それでも不確定要素が多い中で、勝利への自信は乏しかった。「最悪でも最下位だけは免れたい」というのが、佐々木調教師の正直な気持ちだった。が、キズナの持つポテンシャルが、時間の経過とともに、佐々木調教師の見立てをいい意味で裏切っていった。

 ゲートで待たされたものの、動じることなく、不利のないスタートを切ったキズナ。道中は、馬場を気にすることも、折り合いを欠くこともなく、鞍上の武豊騎手とともにリズムよく、後方のインコースを追走した。

 はたして勝負どころを迎えても、武豊騎手はまだ手綱を持ったまま、楽な手応えで前方の馬群の様子をうかがっていた。その光景を見て、佐々木調教師は驚きを隠せなかったという。自身の心配をよそに、キズナは余裕たっぷりに、非常に堂々としたレースぶりを見せていたからだ。

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