【競馬】競走馬が必ず走る、鉄板の「エサ」は存在するのか

  • text by Sportiva

元調教師・秋山雅一が教えるレースの裏側
「走る馬にはワケがある」
連載◆第6回

近年、競走馬の"食"の重要性が高まっているという。では、どんなモノを食べている馬が結果を出すことができるのか。元調教師の秋山雅一氏に聞いてみた。

「走る」馬は、きちんとした食生活を送っているという。「走る」馬は、きちんとした食生活を送っているという。
――前回に引き続き、競走馬の食生活について、お話を聞かせてください。実際、餌(えさ)の違いで競走馬の成績が変わることはあるのでしょうか。

秋山 あります。私も調教師をやっていたときは、餌には相当こだわりを持っていましたからね。20年間、ずっと悩んで、何度も変えていましたよ(笑)。そしてその間、一頭の馬の話ではないのですが、餌によって、厩舎全体の年度別の成績に差が出ることがありました。

 ただ、残念なことに、競走馬の餌については「コレ」という正解がないんです。厩舎の成績がいいときは、そのときの餌の配合がよくて、そのとき所属している馬に合っているというのはわかるんです。でも、新たな世代の馬が入ってくると、その世代ではこれまでの餌がまったく合わなくて、急に厩舎の成績が落ちてしまうことがあるんです。その度に、餌を変えていましたね。同じ飼料でも、まったく違う製造元のモノに変えて対応することが何度もありました。

――競走馬にとって、どれが良い餌で、何が悪い餌なのかわからない、というのは大変ですね。

秋山 悪い餌というのは、ないんですよ(笑)。トレセンの中で与えられている餌は、競走馬理化学研究所というところで厳しい検査を受けて、合格したものだけですから、すべて「良い餌」なんです。問題なのは、馬に合っているのか、マッチしているのか、ということ。それはもう、こちらでいろいろな飼料を試して、試行錯誤を繰り返しながら、一頭、一頭の馬に"合うモノ"を見つけてあげるしかありません。それでも、すぐに結果が出るものではないのですが、そこで手を抜いたら、いい競走馬は育ちませんからね。競走馬にとって栄養補給、食生活というものは、運動や休養と同じくらい大事なことなんですよ。

――そうした"食"へのこだわりは、やはり人間のアスリートに近いものがありますね。

秋山 その通りです。競走馬にとっても、運動・栄養・休養はどれも欠かせない要素で、走るための土台となるものです。私は、競走馬にどんな運動(トレーニング)をやらせるか、ということと同じぐらい、どんな栄養(餌)を与えるか、ということが重要だと思っています。しかし、先ほど「正解がない」と言ったように、人間のスポーツ栄養学に比べると、馬の栄養学はまだ研究が進んでいなくて、わかっていない部分が多いんです。

 例えば、飼料の中にサプリメントを混ぜて馬に与えたこともあるのですが、それはあくまでも、人間に効果があったから馬にも与えてみよう、というだけであって、科学的な根拠に基づいているわけではないんです。かつて、「クレアチン」という筋肉の持久力がアップするサプリメントが出回ったときもそうでした。競走馬にもいいのではないかと、一時期出回ったことがありました。

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