【競馬】「パカパカファーム」という牧場名はこうして生まれた (2ページ目)
こうした背景が、スウィーニィ氏に牧場名に対するこだわりを一層強くさせた。「ユニークな牧場名をつければ、お金をかけた広告よりもずっと効果が出るはずだ」と。
「私は必死に考えました。とにかく覚えやすい牧場名、一度聞いたら絶対に忘れない牧場名はないかと。多くの牧場がひしめくこの地で、小さな牧場がイチからやっていくためには、まず皆さんにその存在を覚えてもらうことがとても大切なのです」
スウィーニィ氏は牧場開場へ奔走する傍(かたわ)ら、日々印象的なネーミングを思案し、探し続けた。そしてある日、思わぬものがヒントとなった。
「イギリスの至る所にある、日本食レストランの名前は『wagamama(わがまま)』というんです。もうひとつ、私がアイルランドに帰る際、乗り換え場所のフランクフルトでいつも見かけるラーメン店の名前は『Mosch Mosch(もしもし)』でした。どちらもヨーロッパではすごく有名で、人気のあるお店です。日本人からしたら、笑ってしまいそうなネーミングですよね。でも、この店名は良いと思いました。印象に残るし、その由来がちょっとした話題になる。何より、一度聞いたら絶対忘れない。私もこういう牧場名にしたいと考えて、そんな折に『パカパカ』というフレーズを思いついたのです」
海外で人気を博していた日本食の店。実はこれが、パカパカファームという牧場名を生むきっかけとなっていた。
しかし、日本で長年働き、日本人の気質をよく知っていたスウィーニィ氏だからこそ、そのユニークな響きにリスクを感じていたという。
「『パカパカ』というネーミングが、不真面目なイメージを与えてしまったり、信用を落としたりすれば、逆効果。ですから、その名前で確定させるには、慎重になる必要がありました。そこで私は、50名以上の日本人の友だちに、この牧場名の感想を聞いて回ることにしたのです。すると、ほとんどの人が笑顔で『素晴らしい名前だ』と言ってくれました。心配する人も若干名いましたが、彼らはこう言ってフォローしてくれたのです。『外国人の作った牧場なら、大丈夫なのではないか』と」
日本の競走馬生産牧場を見渡しても、唯一無二といえるこのユニークなネーミングは、彼独特の柔らかな発想と、周到な準備のもとで生まれていたのだった。
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