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渋野日向子が持つ「心」の凄さは?
『スラムダンク勝利学』の著者が分析 (3ページ目)

  • 浅田真樹●取材・構成 text by Asada Masaki
  • photo by Kyodo News

「ここ」というのは、ここでやるべきことだけをやれば、結果は出るということ。"何をどんな心で"の「何」だけに注目してやればいいのに、つい結果のことに頭がいってしまうから、心が乱れて、逆に結果が出ない。パターは"打つ"なのに、それがパターを"入れる"になったら、もう結果に囚われているんです。

 そして、最後の「自分」ですが、人間というのは、ファンの目、メディアの目、いろんな目が気になる。なので、周りの人とどう付き合うかが、ものすごく大事なんです。それは、キャディーさん、あるいは、両親ですら、そうだったりする。自分以外は全部他人ですからね。SNSの時代は余計に「自分」を失いやすい。

 たとえば、相手はがんばれよと励ましてくれているつもりでも、こちらはかえってしんどくなることがある。試合が終われば、そのたびに、「今日はどうでしたか?」ってメディアは寄ってくる。周りの成績も気になる。となると、どうしても自分の意識が、他人に振られてしまうんです。つまり、自分というものが失われるわけです。

 結局、心が整っているときというのは、「今」、「ここ」、「自分」で、脳みその中が埋まっているとき。ほとんどの失敗は、そうではないとき=ノンフローのときに起きています。「今」、「ここ」、「自分」という思考をきちんと形成して、思考が乱れたときには、それに気づき、自らその3つを意識的に思考し、取り戻していくことが、メンタルマネジメントのスキルなんです。

 渋野さんにそのスキル、つまり、それが再現性に必要な能力なのですが、それがあるかどうかはまだわかりません。ただ、「今」、「ここ」、「自分」だけに集中した状態にするために、彼女のトレードマークである笑顔、すなわち、表情をよくするというのはいいことです。言葉、表情、態度というのは自己ツールと呼ばれていて、自分の心の状態をマネジメントするために大切な、自分のために自分でコントロールできるツールだからです。

 現段階で、彼女のメンタルマネジメントが高いレベルでスキル化されているかどうかは不明です。ノンフローの海に溺れたとき、安定的、継続的、自動的に再現性をもって、フローの状態に導いていけるかどうかは、まだ実証されていませんからね。しかし、自己ツールの言葉、表情、態度を選べるというのは、メンタルマネジメントの基本のき。そういう意味では、高いレベルで、とまでは言えませんが、無意識にスキル化されている可能性はあるでしょう。

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