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渋野日向子が持つ「心」の凄さは?
『スラムダンク勝利学』の著者が分析 (2ページ目)

  • 浅田真樹●取材・構成 text by Asada Masaki
  • photo by Kyodo News

 揺らぎや囚われが少なく、あったとしても、すぐに戻る力があった。だから、あれだけ多くのバウンスバック(ボギー以下のスコアだったホールの、次のホールでバーディー以上のスコアを出すこと)もできる。フローの状態を安定的に保つ、もしくは、乱れても早く整えることができた証だったと思います。

 ただし、それは心さえ整っていればよかったわけではなく、技も、体もそろったうえでのことです。「心で勝つ」なんてことを言うと怪しいから(笑)。かと言って、心が乱れまくって、あの結果はないと思いますし、技術的に下手くそでも、当然、あの結果は出せません。あくまでも、技と体があって、それを下支えしているのが、心なんです。

 とはいえ、その再現性が、今の彼女に本当に備わっているのかは、私にはまだ知る由はありません。アスリートにとって最大の敵のひとつは、メディア。メディアによって、揺らぎや囚われが生じ、アスリートのほとんどが、ノンフローに導かれてしまいます。逆に言えば、メディアに注目されないノーマークは、アスリートにとって最高の環境なんです。

 渋野さんも、全英から帰ってきたら、メディアに心を乱されて、予選落ちすることもありました。若い頃に何となく大きな大会に勝ったあと、メディアに注目され、なかなか勝てなくなる選手がどんな競技にもいますが、その後に勝ち続けられるかどうかで、真価が問われるんだと思います。

 全英を勝ったあとに一時、渋野さんは何となく調子が下降しましたよね。どうしてそうなるかというと、基本は「今」、「ここ」、「自分」が失われるから。この3つがしっかりしているときに、人間の心は「フロー」なんです。

「今」を裏切っているのは、過去か未来。思考が過去や未来に飛んでしまうと、「あのときはよかったな」とか、「次はいつ勝てるかな」とか、絶対にそこに囚われてしまう。人間は他の動物に比べ、頭が優秀なために、「なぜ、前のホールでOBしてしまったのかな」「昨日はあんなによかったのに」って、結果がよくても悪くても、脳みそが過去や未来に思いを馳せながら、心を乱す生命体なんです。ちなみに、過去や未来のことに気を取られ、今現在に集中できないことを"タイムワンダリング"と呼びます。

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