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【FIFAワールドカップ】ジャイアントキリングで鳴らすアイルランドにまた英雄が誕生 トロイ・パロットが2試合5得点の大活躍 (2ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji

【アイルランドとワールドカップ】

 アイルランドはW杯に過去3回出場している。初出場はジャッキー・チャールトン監督に率いられた1990年イタリアW杯だった。グループステージはイングランド、エジプト、オランダとの3試合をすべて引き分けてベスト16へ進出。ラウンド16でもルーマニアと引き分けてPK戦でベスト8へ。準々決勝では開催国イタリアに0-1で敗れたが、大健闘だった。4年後のアメリカW杯もグループステージを突破、ラウンド16でオランダに0-2と敗れた。そして3回目の2002年日韓大会は、先述のとおり無敗のままラウンド16で敗退。

 W杯でのアイルランドは、実に負けっぷりのいいチームである。負けて暴れるサポーターなどおらず、いつも力いっぱい戦った選手をねぎらい、彼らの歌を皆で歌い、オレンジと緑と白の国旗色のヘンテコな帽子をかぶって陽気に踊る。もともと勝敗についてはあまりこだわりがないようなのだ。W杯は民族の決起集会みたいなもので、チームが魂を見せてくれればそれでいい。優勝を義務づけられている強豪国などとはまったく違っていた。

 もともと優勝できるなどとは思っていない。そんなことより、彼らの物語を紡いでいくことのほうがずっと大事なのではないかと思う。

 アイルランド共和国は人口約520万人。W杯出場は3回で欧州選手権出場も3回。大舞台が少ないだけに、それだけ重みもある。晴れ舞台だ。

 ハンガリー戦のアディショナルタイムに3点目を決めたパロットは「人生でこれ以上すばらしい夜はないだろう」と涙ながらに話している。その前のポルトガル戦でも同じことを言っているのだが、プレーオフ進出を自らのハットトリックでつかみ取ったハンガリー戦は、また格別の思いだったに違いない。

 わずか3分でハンガリーに先制されたが、15分にPKからパロットが同点ゴールをゲット。しかし37分に再びリードを奪われる。ハンガリーのキャプテン、ドミニク・ソボスライは圧巻のプレーを見せていた。フィールドのどこにでも現われ、そのたびに格の違いを見せる。

 ハンガリー優勢で進むなか、80分にまたもパロットがゴール。ディフェンスラインと入れ替わるように飛び出し、冷静にボールをチップさせて同点とした。

 アディショナルタイムも終わりに差し掛かり、引き分けならプレーオフへの道を断たれてしまうアイルランドは、GKも攻撃に参加してハイクロスを送る。リアム・スケールズが競り落としたボールにいち早く反応したパロットは、GKの前でバウンドしたボールに足を伸ばし、足裏で叩いてGKの下を抜いて決勝点をゲットした。

 その瞬間、まるでW杯で優勝したかのような大騒ぎになっている。というより、ファンはこれを見るためにアウェーにも大挙して応援に参じていて、選手もこれを見せるためにプレーしているのだ。W杯で優勝するつもりの強豪国では、おそらくお目にかかれない光景だろう。

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