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【プレミアリーグ】グリーリッシュ完全復活の理由は心理的自由 サッカースターの移籍成功例を考察 (2ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji

【相思相愛で育った選手】

 バーミンガムはロンドンからそう遠くはない。マンチェスターと並ぶ英国第二の大都市と言われているが、十数年前に訪れた時に大都市というイメージはなかった。少なくともロンドンのような巨大都市とは比べようもない。

 地元感の強そうな都市、バーミンガムでグリーリッシュは生まれ育った。高祖父がアストン・ビラの伝説的選手だったという家系。幼少から筋金入りのビラ・ファン。16歳でトップに昇格、最初のシーズンだけノッツ・カウンティに貸し出されたが、9シーズンをアストン・ビラですごした。

 地元出身の天才少年で熱狂的なビラのサポーター。ファンから愛されないはずがない。愛嬌のある性格も親しまれた。ファンサービスのよさでも知られていた。相思相愛、愛情たっぷりで育った選手なのだ。

 前記のネッツァー、クライフ、オベラートはいずれも地元クラブでプロになり、スターになり、キャプテンになった。当時は皆そうだった。しかし現在はグリーリッシュのような例はむしろ希少になっている。1970年代のローカルスターもネッツァーはレアル・マドリード、クライフはバルセロナに移籍していて、アストン・ビラには大きすぎる選手になっていたグリーリッシュのシティへの移籍はむしろ自然であり、史上最高額の移籍金を故郷に残してもいる。

 現代の選手たちは自らの野望のため、ビジネスのため、ステップアップを望む。アレクサンデル・イサクはニューカッスルと揉めた後にリバプールへ移籍。ジョアン・ペドロもブライトンからチェルシーに羽ばたき、いずれも活躍しはじめた。シティに移籍した当初のグリーリッシュも期待に応えて力一杯のプレーを見せていた。

 ただ、ビッグクラブはとりわけプレッシャーも大きい。少し低調なプレーをすれば、たちまち批判される。今はSNSもあるので悪口も流布される。今季、リバプールに移籍したフロリアン・ビルツは「007」と揶揄された。7試合プレーして0得点0アシストだったからだ。こういうのも愛情の一端かもしれないが、おそらくグリーリッシュが体感してきた愛情とは違うものだろう。

 飲酒やパーティー好きはプロ選手としてはストイックさに欠けるかもしれないが、英国のサッカー選手は伝統的にそういうもので、歴代のスターたちの多くは飲酒関係でトラブルを起こしている。アマチュアチームの試合前の集合場所がパブだったという国柄なのだ。泥酔して路上で寝るスターなど、むしろ好感度が上がりそうである。

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