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ストライカーの常識を大きく変えるウスマン・デンベレ エムバペスタイルはもう古い (2ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji

【ストライカーの守備免除の慣習を打ち壊す】

 しかし、レアル・マドリードのキリアン・エムバペとヴィニシウスはデンベレのような守備をしていなかった。このふたりのスピードも別格なのだが、それを守備面で生かすことが全くと言っていいほどできていない。

 武器にできる能力があるのに使っていない。ただ、これは珍しいことではなく、むしろ能力の高いFWほど守備をしないもので、デンベレや前田のほうが珍しいのだ。リオネル・メッシはある時期から全くと言っていいくらい守らなくなっている。守備に使うエネルギーを温存することで攻撃の爆発力を残し、90分間フィールドにいることを優先している。メッシほど極端でなくても、ストライカーの守備免除は多くのチームで暗黙の了解になっていた。

 だが、デンベレはその慣習を打ち壊そうとしている。前記のインテル戦、レアル・マドリード戦で、その効果は明らかだ。今や、デンベレと言えばプレスの人というイメージになっているが、わずか半年ほど前はそうではなく、むしろデンベレは怠惰な選手の代表格でさえあった。ルイス・エンリケ監督が意識を変えたのは間違いない。けれども、意識の違いだけではないと思う。

 デンベレがプレスしても味方がそれに呼応してくれなければ徒労に終わる。無駄なことを繰り返して消耗したい選手はいない。PSGはデンベレ以外の選手たちも素早く相手をマークしていて、デンベレのプレスが無駄になることはない。チーム全体で前向きに守備をする戦術が徹底されているからデンベレのプレスに効果があり、成功体験があるからデンベレもプレスを続けるという好循環が生まれているのだ。

 逆に、PSGは相手のハイプレスを無効化するのもうまく、エムバペやヴィニシウスの周囲でわざとパスを回して追わせていた。徒労感を植えつけ、守備をしても無駄だと思わせている。

 24分には、レアル・マドリードが珍しくハイプレスしようとしたところを外してカウンターを仕掛け、ファビアン・ルイスが決めて3-0。早々に試合を決めてしまった。

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