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プレミアリーグを席巻したデ・ブライネ マンチェスター・シティでの10年間で発揮した「ダブル10番」と破格のパス能力 (2ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji

【「ダブル10番」を機能させた】

 偽9番の元祖は1940年代のリーベルプレートにおけるアドルフォ・ペデルネラと言われている。それ以前にも技巧派のセンターフォワード(CF)は存在していたが、インサイドフォワード(FW5人時代の外から2番目の選手)のCF起用という新機軸が認識された最初がペデルネラだったようだ。

 偽9番はペデルネラの後輩であるアルフレッド・ディ・ステファノが引き継ぎ、ハンガリー代表のナンドール・ヒデクチも有名な偽9番だった。その後もヨハン・クライフ、フランチェスコ・トッティ、リオネル・メッシと偉大な選手たちが偽9番としてプレーしてきた。

 本来はCFタイプでない選手がCFとしてプレーしたので「偽」だったわけだが、戦術的に偽9番を定着させたのがクライフ監督率いる「ドリームチーム」と呼ばれた時のバルセロナである。

 クライフ監督は、当時2トップ全盛でほぼ絶滅していたウイングを復活させた。両サイドにウイングを高い位置に張らせることで相手のディフェンスラインをピン止めし、その手前のスペースを利用した。ふたりのウイングで相手の4バックの位置を固定させているので、CFが下がればフリーになる。

 常に偽9番を使ったわけではなく、起用された選手もさまざまなのだが、最も効果的でそれらしかったのはミカエル・ラウドルップ。ただ、あれは偽9番というより「ダブル10番」システムだったと思う。

 MFを菱形に組む3-4-3システムだったので、トップ下がいた。9番が下がるというより10番を2人並べていて、ラウドルップのパートナーは主にホセ・マリア・バケーロだった。この形は1970年W杯で優勝したブラジル代表も同じで、偽9番は10番タイプのトスタン、さらに本物の10番にペレという組み合わせ。1982、86年W杯のフランス代表も同じでダブル10番はミッシェル・プラティニとアラン・ジレスである。

 つまり、4-2-3-1システムの1トップが偽9番の場合は、実質的にダブル10番になるわけだ。

 ハーランドが来る前の2シーズン、シティはダブル10番の最高峰とも言えるプレーを披露していた。

 2020-21シーズンは2年ぶりにプレミア王座を奪回、CL決勝進出。2021-22もプレミア連覇。偽9番はギュンドアンやデ・ブライネなど、ほぼすべてのアタッカーが起用されている。ベルナルド・シウバ、フィル・フォーデンなど多くの10番タイプを擁し、どこからでもパスワークで打開でき、誰でも得点できる。まさに偽9番(ダブル10番)システムの真骨頂と言えるものだった。

 今季第35節、久々に偽9番のデ・ブライネはプレスのスイッチャーとなり、プレスバックで奪い、ポケットへの進入、中間ポジションで受けてからの崩しと、復活を印象づける活躍をみせた。35分の決勝ゴールはデ・ブライネのプレスから始まってボールを奪い、デ・ブライネが受けて左へさばいた後、左サイドを突破したジェレミ・ドクのプルバックを待ち構えて決めている。

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