サッカーの「トップ下」はハードワーカー優先へ ユベントスのオランダ人MFは時代の分岐点か (3ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji

【完全にチームのなかの歯車として機能】

 コープマイネルスは26歳のオランダ人。AZでデビューし頭角を現わして、セリエAのアタランタへ移籍。3シーズンを経て、今季からユベントスに加入した。

 AZやオランダ世代別代表では守備的MF。センターバックでも起用されていて、後方を預かるタイプの選手だった。しかし、アタランタではシャドーにコンバートされ、ユベントスではトップ下。オランダの「6番」は守備の人というよりビルドアップにおける司令塔の色彩が強く、当時から得点力も示していた。対人守備に強さのあるタイプではなく、イタリアでは攻撃力を買われたわけだ。

 現在、「10番」の伝統を継承している選手はもはや希少種だ。リオネル・メッシ、ハメス・ロドリゲス、ネイマールなどわずかな例外がいるだけ。2トップの1人、1トップ、ウイング、あるいはトップ下などポジションはさまざまだが、彼らは守備のタスクをほぼ持っていない。守備ブロックの歯車の1つとして組織に組み込まれておらず、守備時は基本的に休んでいる。

 だから試合展開によってボールタッチは数えるほどで、90分間のほとんどで試合に絡んでいないことさえある。しかし、ほんの数回、わずか数秒のプレーでも得点をもたらす格別の能力があり、そのためにフィールドにいるわけだ。

 ケビン・デブライネ、アントワーヌ・グリーズマン、ダニ・オルモなど、ほかにも資質的に「10番」の選手はいるが、メッシほど守備を免除されているわけではなく、それなりに守備のタスクは負っている。それが現代的な10番像だ。

 ただ、コープマイネルスは伝統的な「10番」でも、現代に適応した「10番」でもない。

 オランダの育成出身らしく足下の技術は確か。戦況も読める。ほとんどノーミスでプレーできて、ポケットへの進入、味方を回り込むオーバーラップなど、的確かつ献身的なランニングもできる。

 ミドルシュートは必殺、クロスボールからのシュートもあり、FKからも得点する。さらにそうは見えないが、ドリブル突破もかなりの成功率。こうして並べてみるとトップ下そのものに思えてしまうが、少なくとも「10番」ではない。

 伝統的か現代的かを問わず、「10番」が持つ息を呑むような天才性がないのだ。あっと驚かせるようなアイデアがない。コープマイネルスは優れたトップ下だが、あくまでも秀才であって優等生の域を出ない。そのかわり、完全にチームのなかの歯車として機能できる。

 チーム組織からある意味除外された「10番」ではなく、辛うじて組織に接続している「10番」でもない。つまり、「10番」ではない新しいトップ下像を提示している。

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