サッカー日本代表への合流を前に三笘薫が今季イチのプレーを披露 今後の課題は? (3ページ目)
【はまる試合をどれほど増やせるか】
今季イチを更新するプレーは、その4分後に披露された。対峙するホワイトをいたぶるような動きから、たっぷり時間を掛けて料理した。内に行くと見せかけて縦。と見せかけてストップ。次の瞬間、急に縦に出ると、三笘はゴールライン際から鮮やかなマイナスの折り返しを決めた。アーセナルはGKダビド・ラヤ(スペイン代表)のセーブで難を逃れたが、さらにその直後にもファン・ヘッケからパスを受けると、今度はホワイトを抜ききらぬ間に、右足アウトでスライス気味のボールを相手GKとCBの間に送り込んでいる。
やりたい放題という感じだった。アーセナルは同点にされた後、5バックに変更。プレスを止め、守り倒そうとした。結果論では1-1の引き分けはそれが奏功した産物となる。
一方、三笘にとってはそれが幸いした。少なくとも目の前でふたりが構えたそれまでから、ホワイトひとりになったわけだ。サイドチェンジ気味のボールが三笘の足もとに入れば、3バックの一角である右CBがホワイトをカバーする動きは必然的に遅れる。ホワイトと1対1になる機会は自ずと増えた。
言い換えれば、三笘は相手の右SBと1対1にならない限り、仕掛けようとしなかった。もともとFWにしては慎重なタイプだが、確率の低いプレーは避けようとする姿勢はより強まっているかに見える。
右ウイングのミンテや、交代で入ったアディングラが流れのなかからウイングプレーに入るのに対し、三笘は制止した状態から入る。足もとでボールを受け、相手の右SBと駆け引きを行なう。ミンテやアディングラのプレーが荒々しく見える一方で、三笘のプレーが慎重で思慮深く見える理由だ。
前者がはまる試合もあれば、三笘がはまる試合もある。できればすべての試合にはまってほしいものだが、三笘のほうが周囲の情勢に影響を受けやすいように見える。はまる試合をどれほど増やせるか。今季の三笘に課題があるとすれば、そこになる。
プロフィール
杉山茂樹 (すぎやましげき)
スポーツライター。静岡県出身。得意分野はサッカーでW杯取材は2022年カタール大会で11回連続。五輪も夏冬併せ9度取材。著書に『ドーハ以後』(文藝春秋)、『4-2-3-1』『バルサ対マンU』(光文社)、『3-4-3』(集英社)、『日本サッカー偏差値52』(じっぴコンパクト新書)、『「負け」に向き合う勇気』(星海社新書)、『監督図鑑』(廣済堂出版)、『36.4%のゴールはサイドから生まれる』(実業之日本社)など多数。
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