オリンピックサッカー史上最高の試合!「サッカーに詳しくない観客も引き付けられていった」ことにベテラン記者が驚いた一戦とは? (3ページ目)

  • 後藤健生●文 text by Goto Takeo

【感動的だったソウル五輪決勝】

 ソウル五輪の決勝はソ連とブラジルの顔合わせだった。そして、29分にCKからのボールをロマーリオが決めて、ブラジルが先制する......。

 会場のソウル五輪主競技場には、7万4000人の観客が集まった。

 だが、五輪の観客は必ずしもサッカー好きとは限らない。たまたまサッカーの入場券が手に入ったとか、五輪観戦ツアーに参加したら、たまたまサッカー観戦が含まれていた。そんな、サッカー観戦は初めてという人たちもたくさんいるのだ。

 試合が始まってからも団体客がぞろぞろと途中入場してきたし、スタンドはいつまでもザワザワとした雰囲気で、集中できない雰囲気だった。はたしてこの試合の面白さが観客に伝わるのだろうか......。

 ソ連は、後半にイーゴリ・ドブロボルスキー(彼もウクライナ人)がPKを決めて同点とすると、延長に入って103分のゴールでソ連がリード。その後、ブラジルは同点を目指してひたむきに攻撃を続けたが、得点には至らないまま刻一刻と残り時間が少なくなっていく......。

 場内の大型映像装置には、ブラジルのカルロス・アルベルト・ダ・シルバ監督(のちに読売サッカークラブ=現東京ヴェルディ=監督)が大粒の涙を流す姿が映し出される。

 スタンドの雰囲気も、試合が進むにつれ変わっていった。

 普段サッカーを見たこともないような人々も、すばらしい内容の攻防に引き付けられていったのだ。延長に入るころには、スタンド全体が試合に集中。スタンドのあちこちから自然発生的に「ブラジル、ブラジル」というコールが聞こえてきた......。

 ソウル五輪の4年後、1992年のバルセロナ五輪から男子サッカーは23歳以下の選手による大会となった。バルセロナ五輪ではオーバーエイジ枠もなかったが、地元バルセロナ所属のジョゼップ・グアルディオラらの活躍でスペインが優勝して大いに盛り上がった。

 しかし、それでもソウル五輪こそが、五輪の男子サッカー史上最高レベルの大会だったことは間違いない。そして、僕はそのすばらしい内容の試合がサッカーに詳しくないような観客を引き付けていったことに驚いたのである。

 ソウル五輪決勝は技術的にも五輪史上最高の試合だったし、僕にとって最も感動的だった試合の一つでもある。

プロフィール

  • 後藤健生

    後藤健生 (ごとう・たけお)

    1952年、東京都生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。1964年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、1974年西ドイツW杯以来ワールドカップはすべて現地観戦。カタール大会では29試合を観戦した。2022年12月に生涯観戦試合数は7000試合を超えた。主な著書に『日本サッカー史――日本代表の90年』(2007年、双葉社)、『国立競技場の100年――明治神宮外苑から見る日本の近代スポーツ』(2013年、ミネルヴァ書房)、『森保ジャパン 世界で勝つための条件―日本代表監督論』(2019年、NHK出版新書)など。

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