マラドーナの「神の手」を38年前に真横から見たベテラン記者が綴る南米サッカーの「騙し合い」 (3ページ目)

  • 後藤健生●文 text by Goto Takeo

【「騙し合い」の風土】

 もちろん、今だったらVARによってイングランド戦の先制ゴールは取り消され、ソ連戦ではソ連にPKが与えられたはずだ。しかし、天才マラドーナのことだ。VARカメラには映らないような方法で"神の手"を発動することだって不可能ではないのかもしれない......。

「神の子」によってVARが欺かれるシーンを見てみたいような気もする。

 イタリア大会の"神の手"は、僕は泊まっていたミラノのホテルのテレビで見たのだが、メキシコ大会ではアステカスタジアムの記者席、それもまさにそのプレーが行なわれた地点の真横の位置でそれを目撃した。

 その瞬間、僕は「あれ、ハンドじゃないか?」と思ったのを記憶している。

 僕の周囲には、たまたまアルゼンチンの記者が大勢座っていたのだが、周囲を見回すと彼らも「ああ、あれは間違いなくハンドだ」と口をそろえた。

 おそらく、南米での試合では、ああいった「故意のハンド」というトリックはしょっちゅう使われるのだろう。

 たとえば、2010年南アフリカW杯準々決勝のウルグアイ対ガーナ戦。1対1の同点で迎えた延長後半の終了間際に、ウルグアイのルイス・スアレスが故意のハンドでシュートを止めた。これはレフェリーに見つかってしまってガーナにPKが与えられたが、アサモア・ギャンが失敗。PK戦でウルグアイが準決勝に進出した。

 だから、アルゼンチンの記者たちはすぐにハンドだとわかったのだろう。もし、レフェリーが南米出身だったら、ハンドはすぐに見破られたのではないだろうか......。

 そんな「騙し合い」の風土があるから、南米ではレフェリー側も自分を騙そうとする選手たちと対峙するために、いろいろな武装をすることになる。

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