槙野智章が10年経っても忘れられないドイツでの練習風景「ロンドでボールを取られても絶対に中に入らない」
サッカー海外組「外国でプレーしてみたら驚いた」話
サッカーの「海外組」プレーヤーは、現地で体験する文化ギャップをどう乗り越えてプレーするのか。2011~12年にドイツでプレーした経験のある槙野智章氏に聞く後編は、海外でよく聞く「ミスを認めない、謝らない」の扱い方について。
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【年齢による上下関係が希薄】
欧州の地で、自分が何者かを示していく。そういう話を槙野に聞いていて、もうひとつ興味深い点があった。トレーニングと試合、日々を過ごしていくなかでの出来事だ。
「チーム内で、若いヤツにヘッドロックされたり、肩パン(肩をパーンと叩かれる)されたりみたいなのが結構ありました。うれしい反面、驚くこともたくさんありましたよ」
それは槙野が自ら選択した「ロッカールームでいちばん笑いを取る」というキャラクターの影響だった。
2011年ドイツでプレーしていたころの槙野智章氏 photo by Getty Imagesこの記事に関連する写真を見る 日本では非常に高いコミュニケーション力で知られる槙野が、ドイツ語ではコミュニケーションの幅が狭まる。結果、選んだのが「ワイワイしてるヤツ」「面白いと思われるヤツ」という点だった。
ピッチ外であっても何らかの存在価値を示さなければ、試合出場はより遠のく。そんな事情もあったのではないか。
ただ、槙野は「イジりとしてはいいんだけど、若いヤツってこんな来るんだとか、やっぱ海外って違うなというのはやっぱありました」とも感じていた。
一般的にヨーロッパ社会は、日本よりも年齢による上下関係が希薄だ。各々が神とつながり尊厳のある個人が集まり、社会が形成される。年齢の差よりも、その人のスキルの高さに対するリスペクトのほうが重要視される。サッカーでいえば「ピッチで力を発揮できる」ほうが偉い。槙野は、チーム内の雰囲気をこう感じていた。
「僕は、上下関係も、もちろんリスペクトを含めてあったと思います。ただ、日本みたいに若手が先輩に対して、ものすごく腰が低い感覚はないですね。ドイツでは、基本的に試合に出てるか出てないかとか、そういうところでの関係性はすごくあったかなと思います」
そういったなかで槙野もまた、「自分がどういう人なのかを最初に作り上げることと、相手にどう見られるかというのが大事」だと考えていた。その結果、ヘッドロックは「たぶん向こうの人からするといけるって思われたんだな」とも感じていた。
槙野は異文化への対応について、さまざまなスタイルがあると見ている。
「ウッチー(内田篤人)は『俺はドイツ語、喋らないからね』みたいなスタイルでやったとも言ってたし、それこそ伊東純也も『俺はもう言語、学ばないよ』とか。どんなかたちであれ、そういう一人ひとりのキャラをちゃんと確立して、相手にどう見られるのかは、ヨーロッパでは結構、大事だと思います」
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著者プロフィール
吉崎エイジーニョ (よしざき・えいじーにょ)
ライター。大阪外国語大学(現阪大外国語学部)朝鮮語科卒。サッカー専門誌で13年間韓国サッカーニュースコラムを連載。その他、韓国語にて韓国媒体での連載歴も。2005年には雑誌連載の体当たり取材によりドイツ10部リーグに1シーズン在籍。13試合出場1ゴールを記録した。著書に当時の経験を「儒教・仏教文化圏とキリスト教文化圏のサッカー観の違い」という切り口で記した「メッシと滅私」(集英社新書)など。北九州市出身。本名は吉崎英治。