なぜサポーターは暴力をふるうのか イタリア人記者が考察する残虐行為と犠牲者のリスト (3ページ目)
【試合と関係なく起きる衝突】
SNSが発達した最近では、暴力をふるう仲間を集うことが簡単になり、スタジアムから離れたところで起きる諍いはより増えている傾向にある。
こうした暴力事件は、チームへの愛とか忠誠心はほとんど関係ない。多くの場合、サポーター間に何十年も前から続く敵対関係がきっかけとなり、それがいつの間にか獰猛な憎悪に変わり、爆発するパターンだ。
たとえばローマとナポリのサポーターは、以前は北イタリアのチーム(ユベントス、ミラン、インテル)に対抗するため同盟を結んでいたが、前述したチーロ・エスポジートの死をきっかけに激しく対立するようになった。この2チームのウルトラスの衝突を語り出したら、それだけで本が一冊書けてしまうだろう。ちなみにローマのサポーターは、集団でナポリへ遠征することを、その後、何年も禁じられている。
また、1993年に起こったサンプドリアとミランのウルトラスの衝突も、試合とは全く関係なかった。今から30年前、逆方向に走っていた2台のウルトラス専用列車(遠征に行くための特別仕様列車)が偶然小さな駅ですれ違った。1台にはサンプドリアのサポーターが乗っており、1台にはミランサポーターが満載されていた。両グループは非常ブレーキを引いて列車を停車させると、車両から降り、数百人を巻き込むバトルを繰り広げた。もちろんそのほかの列車もおかげで何時間もストップした。
日本ではどうかわからないが、イタリアの場合、ライバル意識が強いもうひとつの理由は、各ファンに政治的傾向があることによる。
たとえばリボルノのサポーターは極左、ラツィアーレは極右として有名だ。インテルも右翼であるため、ラツィオとは友好関係にあるし、スペインのバレンシアも同じ思想のためサポーター同士が姉妹協定を結んでいる。2015年のローマダービーでは、ラツィオサポーターに加勢するためにポーランドのヴィスラ・クラクフ(同じく極右)のサポーターがわざわざオリンピコにまでやって来たこともあった(彼らは皆、覆面をかぶっており、異様な光景だった)。
(つづく)
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