エレベーターで高級車を部屋へ... メッシがマイアミで手にしたもの、失ったもの

  • リカルド・セティオン●文 text by Ricardo Setyon
  • 利根川晶子●翻訳 translation by Tonegawa Akiko

 すべては友達同士の会話から生まれた。2016年にデイビッド・ベッカムがMLS(メジャーリーグサッカー)で新チーム創設を画策している際、リオネル・メッシは彼にこう約束したのだ。

「すべてうまくいったら、いつかはそのチームでプレーするよ」

 それから7年、その言葉は現実となった。インテル・マイアミのピンクのユニホームを着て、今、メッシは笑っている。

 バルセロナからパリ・サンジェルマン(PSG)に移籍した時、メッシは記者会見で涙を流した。今回の移籍でもメッシは涙を流していたかもしれない。ひそかに、誰も見ていないところで。

MLSのインテル・マイアミでデビューを果たしたリオネル・メッシ photo by AP/AFLOMLSのインテル・マイアミでデビューを果たしたリオネル・メッシ photo by AP/AFLOこの記事に関連する写真を見る 誰もが知るとおり、メッシが本当に行きたかったのはバルセロナだ。バルセロナは彼が人生の大半を過ごしてきた場所だ。友人もいる。家もある。家族もあの街を愛している。メッシが本当に「故郷」と感じる場所はアルゼンチンの地元ロサリオではなく、バルセロナだろう。

 実際、メッシのバルサ帰還を多くの者が画策していた。たとえばペペ・コスタ。彼は元ナイキの人間だったが、バルサに請われて選手のサポートスタッフになった人物だ。メッシは特に彼を信頼していて、第二の父親のように慕っていた。彼はメッシがバルサに帰ってきて、望む限り現役としてプレーし、その後はチームの幹部として永遠にバルセロナに残ることを願っていた。

 では、なぜメッシの帰還は成功しなかったのか。

「最後までバルセロナからは正式なオファーは届かなかった」とメッシ側は主張する。バルセロナは「オファーはした」と言っているが、バルセロナがしたのは「帰ってこないか?」という打診のみだった。年俸や詳細ま条件などの具体的な話は一切されていない。

 実際、メッシがマイアミに行くという噂が立っても、バルセロナは動かなかった。ベッカムが提示したのと同じだけの金額を約束できなかったからだ。バルセロナはメッシがPSGに行った2年前と変わらず、今もスペインのファイナンシャルフェアプレーに苦しんでいる。

 だが、メッシへの高い年俸を払いきれないと言っておきながら、バルセロナは高給取りのイルカイ・ギュンドアンを獲得した。この知らせにメッシの父は怒った。「メッシに対するリスペクトが足りない」と、舵は大きくマイアミに向かって切られた。

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