元横浜F・マリノス中町公祐が体感したアフリカ社会とザンビアサッカーの現実 「大きな音がしたと思ったら銃弾が...」 (4ページ目)

  • 栗原正夫●文 text by Kurihara Masao
  • 竹谷郷一●写真 photo by Takeya Kyoichi

【「1ミリも後悔していない」】

 苦悩は何もピッチだけではない。アフリカのなかでは比較的治安が安定しているザンビアだが、それはアフリカの他国と比較しての話である。

 車を停めていた時に、窓ガラスを割られて中にあった荷物を盗まれたことは一度ではない。

「数カ月前に、部屋で大きな音がしたと思ったら銃弾が撃ち込まれていました。

 そのほか、外食をしたあとに行くミュージッククラブで酔っぱらいに絡まれたり。外国人があまり立ち入らないローカルなエリアに入っていく自分が悪いのかもしれませんが、相手にしたら不愉快なんでしょうね。僕は決して武闘派ではないですが、向こうは弱肉強食の世界で、なよなよしていれば舐められてしまう。何か言われたら黙っているわけにもいかず、言い返して殴られたり、頭突きを喰らったこともありますよ(笑)」

 明るい口調で話すことで、深刻な状況ではないようにも感じるが、聞けば聞くほど現地の過酷さは伝わってくる。ただ、大きな収入を捨て、あえて厳しい環境に身を置く決断をしたのは彼自身である。だからこそ、中町は「ストレスは溜まる」が、ザンビアに行ったことは「1ミリも後悔していない」とはっきりと言う。

 サッカー選手としての旅は、いつ終わりが来ても不思議ではない。ただ、彼が本気で挑む社会貢献活動は、まだ始まったばかりなのかもしれない。

プロフィール
中町公祐(なかまち・こうすけ)
1985年9月1日生まれ。埼玉県出身。群馬県立高崎高校卒業後、2004年に湘南ベルマーレ入団。4年間で66試合に出場するも戦力外に。2008年、在学していた慶應義塾大学ソッカー部に入部し、1部昇格に貢献。大学卒業後の2010年にアビスパ福岡に入団しJリーガーに返り咲くと、2012年に横浜F・マリノスに移籍し、2018年まで主力として活躍。2019年にザンビアのゼスコ・ユナイテッドに移籍すると、その後はムトンド・スターズ、シティ・オブ・ルサカでもプレー。NPO法人「Pass on」の代表理事を務めるほか、現役選手初のJFA国際委員としてピッチ外でも活躍する。

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