300億円のロナウド、150億円のベンゼマの次は誰か 巨額の金が動くサウジアラビアリーグ、国家プロジェクトの野望と背景 (3ページ目)

  • 井川洋一●文 text by Igawa Yoichi
  • photo by Getty Images

【"スポーツウォッシング"の意図の指摘】

 ただしここ数年、主に欧州のメディアで問題視されている、国家や個人が自らの不都合なイメージをスポーツを利用して覆い隠そうとする行為"スポーツウォッシング"の意図が、ここでも指摘されている。

 絶対君主制国家サウジアラビアは2018年10月、同国出身の民主化運動家にして著名ジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏をトルコのサウジアラビア領事館で殺害した疑いが持たれている。また同国の法律では、同性愛が犯罪で、発言や信仰の自由や女性の権利も極めて限定されている。多くのスター選手の存在で、サウジアラビア政府にとって嫌な話題から目を背けさせようとする意向もあるのだろうか。

 いずれにせよ、カネに糸目をつけない乱獲はここから本格化しそうだ。

 2010年代に中国のクラブのオーナーたちがサッカー好きの国家主席に取り入ろうとする方法のひとつとして巨額の投資を始め、その筆頭だった広州恒大は国内リーグを9度制し、ACLで2度優勝した。

 コロナの影響もあって中国のサッカーバブルははじけたが、今度はサウジアラビアがより厚い札束をもって世界のフットボール界を揺るがそうとしている。中東の大国としては、W杯を開催し、パリ・サンジェルマンの持ち主であるカタールや、ついにチャンピオンズリーグを制したマンチェスター・シティを保有するUAEの派手な動きは面白くなかったのだろう。ここにきて、大きく巻き返そうとしているようにも映る。

 日本のクラブにとっては、アジアの頂点への道のりの最後に大きな困難が待ち構えることになるか。早ければ、次のACL決勝にロナウドかベンゼマが出場する可能性も。ファンとしては、楽しみが増えることになるかもしれないが、その動きは注視したほうがよさそうだ。

プロフィール

  • 井川洋一

    井川洋一 (いがわ・よういち)

    スポーツライター、編集者、翻訳者、コーディネーター。学生時代にニューヨークで写真を学び、現地の情報誌でキャリアを歩み始める。帰国後、『サッカーダイジェスト』で記者兼編集者を務める間に英『PA Sport』通信から誘われ、香港へ転職。『UEFA.com日本語版』の編集責任者を7年間務めた。欧州や南米、アフリカなど世界中に幅広いネットワークを持ち、現在は様々なメディアに寄稿する。1978年、福岡県生まれ。

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