決定機を逸した三笘薫は「勝負を決めきれない選手なんだ」と悔しがる ブライトンが惜敗したFAカップ準決勝現地レポート (3ページ目)

  • 井川洋一●取材・文 text by Igawa Yoichi
  • photo by Getty Images

【「あそこのクオリティがすべてなので」(三笘)】

 90分を終えてもスコアが動かなかったのは、両監督にとって今季3度目のこと。すっかり闇に覆われたロンドンの空から雨が降り出し、延長が始まった。

 その前半にはマーカス・ラッシュフォードの強烈なシュートがDFに当たって枠に飛びながらも、ブライトンの守護神ロベルト・サンチェスがスーパーセーブ。逆に後半には、少しずつ調子を取り戻した三笘が、ボックス内でアレクシス・マクアリスターのリターンパスを受けるも、タッチが乱れて仕留めきれなかった。

「あそこのクオリティがすべてなので」と試合後に三笘はそのシーンを振り返って肩を落とした。「あれを決めきれるか、決めきれないかで勝敗がつく。あのシーンに戻りたいですけど、それはできないし、(自分は)勝負を決めきれない選手なんだと」。

 迎えたPK戦では、どちらも6人目まで全員が決め、先攻のブライトンの7人目、マーチが右のトップコーナーを狙い、惜しくも枠を外してしまった。直後にユナイテッドのビクトル・リンデロフが冷静に沈めて、勝負は決した。

 ブライトンはこの大会で唯一決勝に駒を進めた1983年と同じく、ウェンブリーでユナイテッドの前に跪(ひざまず)いた。

 本来の力を発揮できなかった三笘も、タイトルを意識したことを認めている。

「もちろんそれは......、勝てば決勝でしたし。なかなかこういう機会がないなか、優勝すれば来季のヨーロッパリーグという大きなチャンスもあったので」

 大粒の雨なのか、それとも悔し涙なのか、スポットキックを外したマーチは試合後、濡れた顔を下に向けて立ち尽くしていた。

「私自身、選手時代にPKを何度も失敗したと彼に伝えた」とデ・ゼルビ監督は明かした。「ウェンブリーでのPK戦だ(重圧は計り知れない)。マーチは今日のうちのベストプレーヤーのひとりだ。彼、そしてチーム全員を誇らしく思う。特に今日は」

 もしあのままPK戦が進めば、その次の次が三笘の順番だったという。現場にいた者としては、率直に、見ていられなかった気がする。それほどのプレッシャーが感じられた。

 南から吹く潮風と熱いファンに後押しされたブライトンの冒険は、惜しくも4強で終焉を迎えた。夢はいつしか目標に変わり、敗れてもなお、勝利にふさわしかったと信じている指揮官もいる。悔しいに違いない。だがサポーターたちはきっと、このセンセーショナルなシーガルズに誇りを抱いているはずだ。

プロフィール

  • 井川洋一

    井川洋一 (いがわ・よういち)

    スポーツライター、編集者、翻訳者、コーディネーター。学生時代にニューヨークで写真を学び、現地の情報誌でキャリアを歩み始める。帰国後、『サッカーダイジェスト』で記者兼編集者を務める間に英『PA Sport』通信から誘われ、香港へ転職。『UEFA.com日本語版』の編集責任者を7年間務めた。欧州や南米、アフリカなど世界中に幅広いネットワークを持ち、現在は様々なメディアに寄稿する。1978年、福岡県生まれ。

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