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亡きヴィアリとイタリア代表監督マンチーニ。イタリアが涙した「双子」の友情の物語 (5ページ目)

  • 利根川晶子●文 text by Tonegawa Akiko
  • photo by AP/AFLO

【マンチーニはゴールを譲った】

 だが、シーズンはまだ始まったばかり、落ち着いてプレーすることが重要だ。熱くなりやすいマンチーニには、それは難しかった。自分に思ったようなボールが来ないと、そばにいるチームメイトに容赦なく噛みついた。審判にも文句を言い、カードを出されることも少なくなかった。マンチーニの気難しい性格にチームメイトは手を焼いたが、それでも彼はやることはやるので許していたという。現在、監督となったマンチーニは「当時の仲間には本当に済まないことをした」と、反省する。

 そんなマンチーニが唯一、怒らない相手はヴィアリだった。ヴィアリとは視線をかわしただけでわかり合えたからだ。

 ふたりが喧嘩をしたのは、長いキャリアのなかでたった1度だけだったという。些細なことから数日間、口をきかなかったが、その後の試合では普通にマンチーニがアシストをして喧嘩は終わった。「たぶん一度、喧嘩をしてみたかったのだと思う」と、マンチーニは振り返っている。

 ふたりの友情を示す例は他にもある。

 このシーズンの対ピサ戦。ヴィアリはケガから戻ったばかりで、復活を示す必要があった。後半に入り長いゴールキックからマンチーニがボールを得ると、敵をかわしドリブルで相手ゴール前へと攻め上がった。この時、ヴィアリも前線にいて、ふたりのどちらもがシュートできる態勢にあった。するとマンチーニはヴィアリにボールを出し、ゴールを彼に譲った。まるで「今日はお前が決めろ」と言うように。ヴィアリの復調がサンプドリアの優勝に欠かせない要素であることをマンチーニは知っていた。

 こうしたチームプレーもあって、シーズン後半、サンプドリアは首位を走り続ける。その後ろにぴったりと食らいついてきたのはインテルだった。

 シーズン終了4節前の直接対決の時、インテルとのポイント差は3だった。サン・シーロでのビッグマッチ、インテルは前半からよく攻めたがGKのジャンルカ・パリュウカのスーパーセーブとヴィアリのゴールでサンプドリアは頂上決戦を制した。

 シーズン最後のホーム戦で、サンプドリアはレッチェに勝利。ヴィアリとマンチーニはついにサンプドリアに史上初のスクデットをもたらした。審判がタイムアップの笛を吹くと喜びが爆発。サポーターもピッチに流れ込み、選手たちはみなパンツ1枚にされたが、生涯忘れない日となった。
(つづく)

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