スペイン代表は「自分たちのサッカー」に揺るぎない自信と愛着を持つ。ポゼッションとハイプレス、不変のスタイルでカタールW杯へ (3ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

自分たちのサッカーへの揺るぎない自信

 2008年ユーロ優勝のシャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタ、ダビド・シルバ、セスク・ファブレガスの「クワトロ・フゴーネス」(4人の創造者たち)は画期的だった。守勢になったら脆そうな、テクニカルなMFばかり並べた構成は、守勢にならないことを前提としている。クライフ監督が守備的MFのポジションに強力な守備者ではないグアルディオラを起用した発想そのものと言っていい。

 自分たちの長所だけを考えて編成し、それを相手に押しつける。プレースタイルについてさんざん迷ってきた歴史を経ての、開き直った選択でもあった。歴戦の老将ルイス・アラゴネス監督は最後の賭けに勝ったわけだ。

 アラゴネスの後あとを継いだビセンテ・デルボスケ監督の下、ワールドカップ初優勝の偉業を成し遂げる。しかし、すでにこの時には「壁」に直面している。ノックアウトステージに入ってからのスペインは1-0の連続だった。スコアだけみ見ればまるで新種のカテナチオである。ボール支配力が圧倒的なので、1点とればそのままゲームを終わらせることができた。

 1-0でも勝ちは勝ち。ただし、ボール支配力を得点に結びつけられなかったのも事実である。2014年ブラジルW杯、2018年ロシアW杯のスペインもボール保持率の高さは変わらなかったが、グループリーグ敗退とラウンド16での敗退という結果に終わっている。弱点もそのままだったからだ。

 そして、カタールW杯に臨むスペインもそこは変わっていない。

 プレーの基本構造は全く変わっていないのだが、少し変化したところをあげるなら、ボール支配力を直接得点に結びつけるよりも、敵陣でボールを奪って得点にしようとする意識が高いところだろう。

スペイン代表の主要メンバースペイン代表の主要メンバーこの記事に関連する写真を見る ハイプレスはスペイン方式の基本なので、プレースタイルを変えたわけではない。むしろ崩しきっての得点が減っているので、敵陣ボール奪取からのショートカウンターが露出していると言うべきかもしれない。

 そもそもシャビ、イニエスタの時代でも崩しまくって大量得点していたわけではなく、世代交代して小粒化した現在のスペインが効率的に得点するにはそれしかない状況なのだろう。ボールを保持できるので押し込める、押し込んだ結果としてのハイプレスというより、ハイプレスするためのポゼッションになっている感さえある。

 ルイス・エンリケ監督が率いたバルセロナには、リオネル・メッシ、ルイス・スアレス、ネイマールがいた。ハイプレスは理想的な強度ではできないかわりに、3人のカウンターで点はいくらでもとれた。

 その経験がある監督だけに、逆にMSNクラスのアタッカーがいない以上、プレスを強化して得点に変えようという割りきった姿勢がとれるのだろう。その結果、スペインはいかにもスペインらしいスタイルを貫いている。10代のガビ、ペドリの才能を信頼し、徹底したポゼッションで押し込み、高い位置でボールを奪って仕留める。ノックアウトパンチはないかわり相手には打たせず、細かいパンチを入れ続けて弱らせる。

 スペインは変わらない。だから対戦相手は作戦を立てやすい。グループリーグで対戦する日本にとっても、これほどわかりやすい相手はないはずだ。

 ただ、だからといって戦いやすいわけではない。相手にわかられても勝てる。その自信が揺らいでいないから変わらないし、世界一まで導いてくれた自分たちのサッカーを放棄するつもりもない。

 例としてどうかとも思うが、カレーやラーメンが日本の国民食になっているように、スペインのサッカーは疑う余地のない、アイデンティティに関わるものになっているということなのだろう。

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