スペイン代表は「自分たちのサッカー」に揺るぎない自信と愛着を持つ。ポゼッションとハイプレス、不変のスタイルでカタールW杯へ (2ページ目)
オランダ方式のスペイン語化
オランダのサッカーは理詰めだ。かつてルイス・ファン・ハール監督が日本とのフレンドリーマッチのあとで、劣勢になった要因として「左側のセンターバック(CB)が右利きだったから」と話し始めたのは印象的だった。違う機会ではあったが、ビルドアップにおいてなぜ左側のCBが左利きであるべきか延々と説明していたこともあった。
1つ1つのポジショニング、ボールの扱い方、動き方にすべて意味があるのがオランダ方式だ。それを輸入したスペインは、クライフのバルサのプレーについて分析と議論を重ね、1つ1つのプレーの意味をスペイン語で言語化し直している。
これはオランダのサッカーを血肉化するうえで、非常に重要な作業だったと思う。仮にオランダ語のまま、あるいは英語を用語として使っていたら、オランダのサッカーがスペインのサッカーになることはなかったのではないか。
オランダ方式を事象として分析するだけでなく、スペイン語に落とし込んだことで理解が進み、全土に浸透していく推進力を得たと考えられる。外国語のままなら、どこか根づかないふわふわとしてた状態になっていただろう。外来のサッカーではあったけれども、それを翻訳して自国の言葉に置き換えたことで自分たちのサッカーにできた。
レアル・マドリードやバルセロナは1950年代から世界トップレベルのクラブチームだったが、それが代表に反映されることはなかった。外国人選手が主力だったため、そのまま代表に転用するのが難しかった。
2008年にはじめてスペイン代表のサッカーというものが確立されたのだが、そこからは全くブレていない。それ以前はレアル風だったりバスク風だったり一定していなかったのが一転して、まるで百年間も続けてきた伝統であるかのような扱いになっているのだ。もはやプレースタイルは聖域化している。
ゾーンディフェンスが世界的に浸透しきった時点で登場したスペインのパスワークは、言わばゾーンの天敵として独り勝ちの様相を呈する。2010年南アフリカW杯で初優勝し、ユーロ2012も制覇した。
ただし、この黄金時代の最中にもいくつかの「壁」は垣間見えていた。現在でもスペインは世界の強豪と言っていいが、かつての絶対的な優位性はすでになくなっているし、優位性があった時代でも常に圧勝していたわけではない。しかし、依然としてスペインは変わる気配をみ見せていない。
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