逆境体質のアトレティコ。堅守をベースに攻撃シフトも自在なスタイルは、CLこそ威力を発揮する

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

欧州サッカー最新戦術事情 
第9回(最終回):アトレティコ・マドリード

日々進化していく現代サッカーの戦術を、ヨーロッパの強豪チームの戦いを基に見ていく連載。最終回の第9回は、スペインのアトレティコ・マドリードを取り上げる。昨季から攻撃に比重を置き、今季は調子を崩しているように見えるが、追い込まれた時の堅守は健在。これから始まるCL決勝トーナメントでこそ注目だ。

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【変化とリバウンド】

 昨季(2020-21)、アトレティコ・マドリードはリーガ・エスパニョーラ優勝を果たした。その前の優勝が2013-14シーズンなので7年ぶりになる。それ以前となると18年もさかのぼることになる。その前はさらに間隔が空いていて19年前だ。

 前回優勝した2013-14シーズンから、アトレティコは常に3位以内をキープし、ヨーロッパリーグ(EL)やスーペルコパなどのタイトルも獲っている。リーガ2強時代を終わらせ、3強時代の幕を開けたのはディエゴ・シメオネ監督の大きな功績だ。

 同じ街のライバルであるレアル・マドリード、カタルーニャの雄バルセロナ。巨大なライバルに対するアトレティコは、常に挑戦者としてファイティングポーズをとり続けている。

 アトレティコもビッグクラブではあるのだが、2つの強大なライバルに対抗するために戦術的に違う路線を選択した。アトレティコの特徴はなんと言っても堅守であり、そう簡単に負けてたまるかという意思表示である。

 レアル、バルサが強大あるのを認め、彼らにあらんかぎりの抵抗を試みるスタイルだ。言わば、自らを逆境に置くことで力を発揮しようとしてきた。

 ただ、昨季優勝したアトレティコは少し変化している。以前よりも攻撃寄りにシフトした。レアル、バルサに寄せていたのだ。もちろん攻撃過多のライバルほどではないが、バランスを攻撃へ移していた。それが優勝できたひとつの要因だろう。

 堅守型と言っても、リーグ戦で対戦するほとんどの相手はアトレティコから見れば格下であり、逆に相手に堅守速攻で抵抗されてとりこぼすのが、それまで優勝できなかった原因だったからだ。

 今季、王者アトレティコは4位に沈んでいる。首位レアルとは14ポイントも離されていて逆転の可能性は限りなく薄い。コパ・デル・レイも敗退し、残るタイトルはUEFAチャンピオンズリーグ(CL)だけだ。もちろんCLは最も獲得が難しいタイトルである。

 今季のアトレティコは失点が多い。いつも失点の少なさでは1、2位を争っていたのが、順位が上の3チームだけでなく自分たちよりも下位のバルサ、レアル・ソシエダ、アスレティック・ビルバオよりも失点している。

 攻撃へ踏み込み、それで昨季のリーグ優勝を勝ちとったわけだが、その副作用が出ている状態かもしれない。最大の武器だった堅守を取り戻せるかどうかが、CLでどこまで勝ち上がれるかのポイントになりそうだ。

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