今季強さが際立つリバプール。自分たちの正義「ストーミング」で小賢しいポジショナルプレーなどひと呑み (2ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

【15秒のアクションを200回】

 2000年のアジアカップで優勝したあと、当時の日本代表のフィリップ・トルシエ監督は記者たちを前にワールドカップへの抱負を語ったことがある。その席で、フランス人指揮官はこんな話をした。

「ミニゲームでも15秒以上キープしたら、私はそこでプレーを止める。そんな状況は試合では起こらないからだ」

 トルシエ監督は「1回の攻撃でボールをキープできるのはせいぜい15秒程度」と言い、「敵味方が15秒以内のアクションを200回繰り返すのが国際試合だ」と締めくくった。「これはビーチサッカーの統計ではなく、サッカーの統計だ」とも。

 先ごろ、マンチェスター・ユナイテッドの暫定監督に就任したラルフ・ラングニックの考え方と非常に似ている、というより同じだ。ラングニックのほうは、

「8秒でボールを奪い、10秒でフィニッシュする」

 秒数の違いは誤差の範囲だろう。トルシエは1955年、ラングニックは1958年生まれで、ほぼ同世代。ミランのプレッシングが世界のサッカーをガラリと変えていく時期と、指導者としてのスタートが重なっていて、大きな影響を受けただろう世代だ。

 トルシエが「キープできるのはせいぜい15秒程度」と言った8年後には、バルセロナが現れている。チャンピオンズリーグ(CL)決勝で対戦したマンチェスター・ユナイテッドのアレックス・ファーガソン監督が「シャビとイニエスタがいれば、彼らは一晩中でもパスを回し続けるだろう」と言ったチームだ。

 ただ、ラングニックはそんなバルサには目もくれず、プレッシングとインテンシティのサッカーを追求し続けたという。そして、今ではラングニック派とも言われる一大派閥を成すに至っている。クロップはラングニックと直接の関係はないが、志向するスタイルはよく似ている。トルシエやラングニックの言葉から拝借すれば「秒のサッカー」だ。

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