ネイマール以降、ブラジルから真のスター選手が生まれないのはなぜか (3ページ目)

  • リカルド・セティオン●文 text by Ricardo Setyon
  • 利根川晶子●翻訳 translation by Tonegawa Akiko

 ブラジルの優秀な選手たちの99%は、整備もされていない空き地やストリートから生まれてきた。裸足に、凸凹な地面、ボールは布をぐるぐる巻きにしたもの、そんな予測不可能な環境でサッカーをしてきた少年たちにとって、スパイクに芝のピッチに革製のボールでプレーすることなど朝飯前だった。

 しかしここ30年、ブラジルは建築ラッシュで、こうした広場や空き地が急激に減った。子供たちが自由にボールを蹴る場所はどんどん奪われてしまった。また、これはブラジルだけの現象ではないが、携帯電話やインターネットの普及も無縁ではないだろう。かつては道でプレーするしか楽しみのなかった子供たちが、今は画面の前で過ごしている。

 それに加えて経済の低迷だ。ここ何十年もの間、ブラジルの経済は非常に難しい状態にある。貧しい家の子供たちは少年と呼ばれる年齢から遊ばず、家族のために仕事に駆り出されることも多い。一方、金のある家は子供に、サッカーよりも勉強を勧める。こうして、寝ても冷めてもサッカーという子供の数はどんどん減ってしまった。

 しかし、何よりも大きな原因は、選手の国外移籍の低年齢化だろう。かつてブラジルの選手が国外に出ていくのは20歳をゆうに超えてからだった。それが年を追うことにどんどん低年齢化している。ジーコがブラジルを出たのは30歳の時だった。ベベットは28歳、リバウドは24歳、ロベルト・カルロスは22歳、ロナウジーニョは21歳。

 一方、現在ヨーロッパにいる選手が国を出た年齢は、コウチーニョ16歳、ロドリゴ18歳、フィルミーノ19歳、リシャルリソン20歳......全員ではないにしろ、その多くが20歳以下だ。

 ブラジルではクラブも財政難なので、若手を育てるよりも、ある程度の高値がつけばどんどん売ってしまう。海外のチームも、ライバルに取られるぐらいなら、いち早く自分の手元に置いておきたいと思う。選手も、いつ給料が支払われるかわからないブラジルのチームにいるより、海外のチームを望む。
(つづく)

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