イニエスタをさらに多彩にしたコロンビアの怪人。敵ボールは奪わない (2ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • 赤木真二●写真 photo by Akagi Shinji

 それまで、ビジュアルのインパクトでナンバーワンだった選手と言えば、1987年の欧州年間最優秀選手(バロンドール)で、1988年欧州選手権西ドイツ大会で優勝したオランダのルート・フリットになる。ドレッドロックスの黒髪を振り乱して大股で疾走するダイナミックなアクションに、度肝を抜かれ、目が点になったものだ。

 ボンバーヘアとドレッドロックス。1987年の南米、欧州両大陸それぞれの年間最優秀選手は、ビジュアルショックの度合いにおいても抜きんでた存在だった。日本人が身近に感じたのは当時、セリエAのミランでも活躍していたフリットのほうだが、実際にそれぞれを現地で見て、どちらが凄いかを比べてみるとバルデラマと言わざるを得なかった。1988年の欧州選手権取材で更新された選手に抱くビジュアルショックのマックス値は、翌1989年コパ・アメリカ取材で、あっさり更新されることになったのだ。

 バルデラマが引退して、かれこれ20年経つが、当時抱いたビジュアルショックはいまだ更新されずにいる。

 バルデラマのような選手は二度と出てこないのではないか。その貴重さ、カリスマ性をいまあらためて痛感させられる。もはや神格化されつつある。圧倒的なビジュアルにまったく見劣りしない、圧倒的なボール操作術の持ち主だった。滅茶苦茶うまかったのである。

 ポジションは、4-2-「2」-2の「2」の左。あるいは中盤ダイヤモンド型4-4-2の2トップ下だった。しかし実際に試合が始まると、ピッチというステージのド真ん中に移動。まさに主役然と、完璧なボールさばきを見せつけたのだ。

 利き足は右だ。しかし右利きの選手にありがちな癖がない。右足のインサイドとアウトサイド、左足のインサイドとアウトサイド、さらに両足の裏を使って、ボールを操作するのだが、どんな動きをしてもバランスが崩れない。右足に体重が乗っても、左足に体重が乗っても、軸にブレが生じない。狭い局面で、相手の逆が取れるのだ。周囲に相手のマークが3人付けば、その3人の動きの逆を突く。どんな局面でも相手から遠い位置にボールを置くことができる、懐の深い動きが特長だった。

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