元神戸監督は、CL決勝進出のマンチェスター・シティに何を注入したのか

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by Getty Images

 筆者は通信アプリを使い、クラブ史上初のチャンピオンズリーグ(CL)決勝進出を祝うメッセージを送った。

「ありがとう。でも、これからだよ。1試合、1試合を戦うしかない」

 CL準決勝でパリ・サンジェルマン(PSG)を下したマンチェスター・シティ。そこでジョゼップ・グアルディオラ監督の参謀役を務めるフアン・マヌエル・リージョの返事である。

 それは謙虚さとも言えるが、勝負に対する真摯さだろう。集団はわずかな緩みで瓦解する。1試合ごとに、最大限に士気を高める必要があるのだ。

2試合合計4―1でパリ・サンジェルマンを破り、決勝進出を決めたマンチェスター・シティの選手たち2試合合計4―1でパリ・サンジェルマンを破り、決勝進出を決めたマンチェスター・シティの選手たち 昨年6月、リージョはシティのコーチングスタッフに入っている。ヴィッセル神戸の監督を無念のうちに辞任した後、中国2部リーグの青島黄海を鮮やかな手腕で優勝させ、軽々と1部にけん引。その采配力は引く手あまただったが、彼を師と仰ぐグアルディオラ監督の求めに応じた形だ。

「どのように集団をマネジメントするのか? それをペップ(グアルディオラ)はなによりも聞きたがった。ほとんどの戦いは、戦う前に決まっているものだからね」

 メキシコ1部リーグのドラドス・デ・シナロアをリージョが率いていた時、グアルディオラはそこを現役最後のチームとして選び、その教えを文字どおり体感。練習後は熱心に、克明に話を聞きにきたという。

 師弟がタッグを組んで以来、シティの戦い方は完璧性を増している。たとえばゼロトップのシステムが熟成。センターフォワードを使わず、よりボールプレーの質を高め、圧倒的な攻撃力を手に入れた。

 しかし、変化の中身は戦術的なものだけではない。
 
 アウェーのファーストレグで1-2とPSGを破ってのセカンドレグ。マンチェスター・シティは2-0と勝利したが、戦略面でリージョの色が滲み出ていた。

 PSG戦に向けてのマネジメントは簡単ではなかったはずだ。ダブルエースの一角、キリアン・エムバペはケガで出場が難しいと言われていたが、もうひとりのネイマールは健在だった。勢いを得た時の強さは、欧州王者バイエルンを破ったように侮れない。1点差など簡単にひっくり返され、流れに飲み込まれることになる。

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