キミッヒはドイツサッカーの新リーダー。自ら契約交渉、将来は名監督
サッカースターの技術・戦術解剖
第55回 ヨシュア・キミッヒ
<タッチダウンパス>
ふわりと飛んで、ペナルティーエリア内に落ちる。受けた選手の目の前はゴール。ヨシュア・キミッヒ(ドイツ)が、いつからこの小さなロブの名手になったのか記憶がない。以前からやっていたような気もするが、最近になって急に増えたように思う。
技術面でも成長し、ドイツ屈指の選手になったバイエルンのキミッヒ アメリカンフットボールのタッチダウンパスのようなロブだが、キミッヒほどの頻度で使っている選手は思い浮かばない。かつてはアンドレア・ピルロ(イタリア)や、ミッシェル・プラティニ(フランス)といった名手がよくこういうパスを蹴っていたが、最近では珍しい。
キミッヒの射程はそれほど長くない。距離は30メートルぐらいだろうか。この距離のパスをピンポイントで届けるのは、トップレベルの選手にとってさほど難しくないはずだ。ただ、ほぼ正面からロブを蹴っても、簡単にシュートに結びつくことはまずない。DFに引っかかるか、オフサイドになるか、少なくとも受け手がフリーにはならない。
ところが、キミッヒのロブは高確率でチャンスになっている。精度もさることながら、タイミングと狙うポイントが普通ではないのだろう。たぶん、何かをつかんだのだ。
もともとそんなに器用な選手だとは思っていなかった。サイドバック(SB)もセンターバック(CB)もMFもこなす、守備も攻撃もできる。そういう意味ではとても器用だが、驚くような技巧派という印象はなかった。
バイエルンで昨季まで同僚だったチアゴ・アルカンタラ(スペイン)のような、やることなすことすべて独特な、見るからにテクニシャンなタイプとは正反対に見えたので、凝ったパスを出すようになったのは意外だった。
極めて堅実で、闘志に溢れ、献身的なプレーでチームに貢献する。それは今でも同じなので、たんに芸域が広がったということなのだろう。
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